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脳を構成する主要な細胞「アストロサイト」が脳内に広く分布する仕組み解明-慶大ほか

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2022年12月07日 AM10:06

アストロサイト前駆細胞の発生過程を追跡することは技術的に困難だった

慶應義塾大学は12月6日、生理学研究所の鍋倉淳一所長らと共同で、脳を構成する主要な細胞であるアストロサイトが胎児や新生児の脳内でどのように移動して持ち場につくのかを、マウスを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部解剖学教室の仲嶋一範教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所の田畑秀典室長(研究開始時は慶應義塾大学医学部解剖学教室専任講師)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アストロサイトは神経細胞の主な産生時期が終了した後の神経幹細胞から生じる。神経幹細胞は脳の最深部にあり、神経細胞はここから脳表面側へと移動、配置して、灰白質を形成。アストロサイトの元になるアストロサイト前駆細胞もまた脳深部で作られ、脳表面側へと移動して、すでにネットワークを形成し始めている神経細胞たちに合流する。このとき、アストロサイトは神経細胞に働きかけ、神経伝達の場であるシナプス形成の促進などを行う。したがって、アストロサイトが正しく移動し配置することは、適切な神経ネットワークの形成に重要であり、その撹乱により、さまざまな精神神経疾患の背景となる病態を引き起こす可能性が考えられる。しかし、アストロサイト前駆細胞の発生過程を追跡することは技術的に困難であり、その解明が待たれていた。

不軌道性移動を示す細胞が「アストロサイト前駆細胞」であることを確認

研究グループはこれまで、マウス胎児の神経幹細胞に蛍光タンパク質を発現する遺伝子を導入し、そこから発生する子孫細胞の挙動を顕微鏡下に観察してきた。そのような観察の中で、ある細胞集団は、これまで神経細胞で知られているような秩序だった移動ではなく、ランダムに見える動きを示すことを見出し、これを「不軌道性移動」と名付けた。

こうした移動を示す細胞を特殊な方法でラベルして培養したところ、アストロサイトに分化した。また、不軌道性移動する細胞に発現するマーカー遺伝子(Olig2)を見出し、このマーカー遺伝子が発現した細胞が光るマウスを作成して細胞系譜解析を行ったところ、アストロサイトに分化した。以上より、不軌道性移動を示す細胞はアストロサイト前駆細胞であることが確認された。

アストロサイト前駆細胞の血管ガイド移動は、アストロサイトの灰白質内での配置に重要

大脳皮質は、脳表側の灰白質と深部の白質とに分けられ、神経細胞は灰白質に集まって並んでいる。研究グループは、不軌道性移動を示すアストロサイト前駆細胞は胎児期の特定の時期にのみ産生されて最終的に灰白質のアストロサイトに分化すること、一方、生後の新生児期に生まれたアストロサイトは主に白質に分布することを見出した。

不軌道性移動する細胞を良く観察したところ、特に脳表層付近では比較的直線的な移動が目立つようになり、これを血管が光るマウスを用いて観察したところ、多くが血管に沿って活発に移動していることを発見した。アストロサイト前駆細胞はこの血管ガイド移動と不軌道性移動を使い分けながら、脳表層へと移動、拡散することが示された。こうした移動様式は、生きたマウス胎児の頭蓋に小さな窓を開けて2光子レーザー顕微鏡で覗き込むという難易度の高い実験による観察においても確認された。

血管ガイド移動は神経細胞には見られない移動方法であるため、両者の網羅的遺伝子発現解析を行い、その分子機構として、血管細胞から分泌される誘因性活性を有するCxcl12に対して、アストロサイト前駆細胞はその受容体であるCxcr4およびCxcr7を発現して血管に引き寄せられる可能性を見出した。実際、これら受容体の機能阻害により、血管ガイド移動が阻害され、さらに脳表層側に配置するアストロサイトが少なくなった。また、そのシグナル経路の下流でインテグリンβ1が働くことも見出し、その阻害によっても、同様の効果が認められた。こうした観察から、アストロサイト前駆細胞の血管ガイド移動は、アストロサイトの灰白質内での配置に重要であることが示された。

アストロサイト発生異常による脳血管障害の理解につながる可能性

今回の研究で、これまで不明だった脳内の最大主要細胞成分の1つであるアストロサイトの発生機構が明らかになってきた。発生期に起源があるとされる脳の病態は多く報告されているが、アストロサイトは神経細胞のネットワーク形成に重要な役割を果たすため、今後、神経細胞そのものの異常ではなく、アストロサイトの発生異常に基づく病態明らかになることが期待される。

また、脳が成熟すると、アストロサイトは血管を取り囲み、血液脳関門と呼ばれる構造を形成する。この構造は脳内環境を一定に保つことに極めて重要であり、アストロサイトの機能低下や産生数の減少によりこれが破綻すると、てんかんや認知機能低下等のさまざまな障害が生じることが知られている。「今回の研究は、このようなアストロサイトの発生異常による脳血管障害の理解にも道を開くものと期待される」と、研究グループは述べている。

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