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ジクロロプロパンによる職業性胆管がん、発症に免疫細胞の関与を確認-東京理科大ほか

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2022年08月04日 AM11:28

直接的にDNA損傷を起こさない1,、がん発症メカニズムの解明が求められる

東京理科大学は8月2日、職業性胆管がんの原因物質である1,2-ジクロロプロパン(DCP)による発がん過程を解明するべく、胆管細胞と免疫細胞であるマクロファージを共培養し、DCP曝露により発現が変化した遺伝子群を網羅的に解析した結果、胆管細胞では、DNA修復に関与する遺伝子群の発現が上昇し、マクロファージでは、細胞周期に関与する遺伝子群の発現が上昇することを突き止めたと発表した。この研究は、同大薬学部の市原学教授、生命医科学研究所の七野成之助教、松島綱治教授、静岡社会健康医学大学院大学の木下和生教授、自治医科大学環境予防医学講座の市原佐保子教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

2013年、ある印刷工場で胆管がんが多発していることが報告され、その原因物質として、DCPが特定された。塩素系有機溶剤であるDCPは、工場内でインクの洗浄剤として大量に使用されており、当時はその発がん性については認知されておらず、法規制の対象外となっていた。このような化学物質が職業がんを引き起こしたことから、各事業者に「自律的な化学物質管理」を求める現在の労働安全衛生法改正の議論が起こった。しかし、DCPは直接的にはDNA損傷を起こさない。このような未知の発がん性物質によるさらなる職業がんの発生を防ぐため、DCPによる胆管がん発症のメカニズムを明らかにし、未知の発がん物質を検出する方法を見出す必要がある。

研究グループが以前に行った研究から、DCPは、マクロファージと共培養した胆管細胞では、DNA損傷のほかにも、AID発現、LDH細胞毒性、活性酸素種産生を起こすことが明らかになっていた。今回、さらにそれらのメカニズムを明らかにするため、DCP曝露によって胆管細胞およびマクロファージで起こる遺伝子の発現変化を調べた。

胆管細胞とマクロファージを共培養、DCP処理による遺伝子発現を解析

ヒト胆管細胞(MMNK-1細胞)とヒトマクロファージ(THP-1細胞)を培養容器内で共培養し、0、0.1、0.4mM濃度のDCPに24時間曝露した。この濃度は、工場内で従業員が曝露されていた濃度と同程度のものである。曝露後、各細胞を溶解バッファーに溶解し、細胞溶解液中に含まれるRNAを逆転写することにより、cDNAを得た。このcDNAを転写プロファイルとして、トランスクリプトーム解析を行った。すると、DCP曝露により発現が変動した遺伝子が、胆管細胞およびマクロファージにおいて、それぞれ1,052個、1,525個確認された。

得られた転写プロファイルに含まれる遺伝子の機能を調べるため、データベースであるGO(Gene Ontology)およびKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)パスウェイを用いて、エンリッチメント解析を行った。これにより、得られた試料中にどのような遺伝子が多く含まれている(=濃縮されている)かを調査した。

胆管細胞ではDNA修復機構、マクロファージでは細胞周期の関連遺伝子が高発現

すると、胆管細胞から得られた転写プロファイルには、「塩基除去修復」に関連する遺伝子が濃縮されており、特にLIG1、PARP4、POLD1遺伝子が過剰発現していた。塩基除去修復は、DNA修復機構の一つである。がん発生は、がん遺伝子やがん抑制遺伝子のDNA損傷から開始される。そのため、DNA修復関連遺伝子の発現は、DCP曝露によるDNA損傷の増加を示唆しており、これは先の研究結果とも一致する。

一方、マクロファージでは、「細胞周期」に関連する遺伝子が濃縮されており、特にBUBIB、CCNB2、CDC20、CDC45、CDK1、CDC7、MCM3、PLK1、PTTG1遺伝子が過剰発現していた。これらの遺伝子の多くは、細胞周期のG1期からS期、G2期からM期への進行、そして安定的な細胞増殖に寄与するものであるため、DCP曝露によってマクロファージの増殖が誘導される可能性が示唆された。マクロファージは炎症反応の制御に主要な役割を担っており、DCP曝露後の損傷部位におけるマクロファージの蓄積は、炎症反応、発がんおよび腫瘍微小環境に影響を及ぼすと考えられる。

マクロファージではサイトカイン関連遺伝子発現レベルに変化、胆管細胞では変化なし

マクロファージが免疫細胞として生体防御にはたらく際、サイトカインと総称される化学物質を放出して、他の細胞との情報伝達を行う。そのため研究グループは次に、サイトカイン関連遺伝子およびその受容体遺伝子の発現レベルを調べた。すると、マクロファージでは、DCP曝露により5個の遺伝子(TNFAIP8L1、CCL2、CXCL2、CX3CR1、CCR6)で発現変化に有意差が認められた。一方、胆管細胞では、各種サイトカイン、受容体の発現に変化はなかった。これらの結果から、DCP曝露によってマクロファージでは炎症反応が誘導される一方、胆管細胞では誘導されないことがわかった。

マクロファージによる炎症の増強が、がんや病的状態を引き起こす可能性を示唆

一般に、マクロファージは活性化することにより、異物や組織損傷に対する免疫・炎症反応を制御する。毒物・異物への反復曝露は、マクロファージによるサイトカイン産生を持続させ、炎症を増強させることにより、さまざまな病的状態やがんを引き起こす可能性がある。胆管細胞のDNA損傷につながる、胆管細胞とマクロファージの相互作用の解明が必要と考えられる。

また、今回の研究では、マクロファージとの共培養により、生体内での炎症環境をin vitroで再現した。この実験系を利用することにより、未知の発がん物質を検出することができ、新しい職業がんの発生を未然に防ぐことが可能となるという。今回の研究成果について、市原教授は、「DCPのように、細胞DNAへの直接的な損傷作用が小さい物質であっても、免疫細胞を介してDNA損傷を引き起こすことがあり、本研究が用いた実験系を利用することで、これまでに見逃されてきた発がん物質を検出し、新しい職業がんの発生を未然に防ぐことが可能となるだろう」と述べている。

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