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アクリルアミドによる神経障害の防御に、転写因子Nrf2が関与と判明-東京理科大ほか

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2021年06月22日 PM12:15

食品にも含まれる環境親電子物質アクリルアミド、神経毒性は社会問題にも

東京理科大学は6月21日、転写因子Nrf2(nuclear factor erythroid 2-relatad factor 2)が、アクリルアミドによる神経障害を防御する役割を持つことを、マウスを用いた実験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の市原学教授、東北大学大学院医学系研究科医科学分野の山本雅之教授、弘前大学医学部医学科の伊東健教授、東京大学医学部健康総合学科の大迫誠一郎准教授、自治医科大学医学部環境予防医学講座の市原佐保子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Toxicology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

アクリルアミドは、紙力増強剤や水処理剤などに用いられるポリアクリルアミドの原料として用いられる環境親電子物質。食品の加熱加工過程でアミノ酸の1種であるアスパラギンと、果糖、ブドウ糖などの還元糖がメイラード反応という化学反応によっても生じることから食品にも含まれる。

アクリルアミドはヒトや実験動物に対する神経毒性を有することが知られており、中枢神経系および末梢神経に影響を与え、神経障害や脳症を引き起こす。ヒトの場合は、アクリルアミドに曝露されることで運動失調や骨格筋の脱力、認知障害などが引き起こされる。実験動物の場合は、アクリルアミドによって末梢神経軸索および中枢神経・末梢神経の神経末端が選択的に障害され、発がん性を示すと同時に発達と繁殖にも有害な影響を及ぼすことが知られている。

親電子物質であるアクリルアミドは、グルタチオンやタンパク質のスルフィドリル基と共有結合することで、細胞のさまざまな機能やプロセスに影響を与える。アクリルアミドと同様の親電子性を有する1-ブロモプロパンはフロン代替溶剤として用いられ、米国、日本の労働者において重篤な神経障害を引き起こした。

抗酸化反応の制御に重要な転写因子Nrf2は神経障害防御に働くか?

Nrf2は、抗酸化反応の制御において主要な役割を果たす因子として知られているが、近年の研究から、炎症誘発性サイトカインのプロモーター領域に結合し、転写活性化を抑制することが明らかなった。これは、Nrf2が2つの細胞保護経路を制御するという重要な役割を担っていることを示している。しかし、環境親電子物質であるアクリルアミドによる神経障害を受ける際に、Nrf2がどのような役割を持つかはあまりよくわかっていない。

Nrf2ノックアウトマウスはアクリルアミド曝露による神経障害の程度が大きい

研究グループは、10週齢のNrf2ノックアウトマウス(C57BL/6JJc)と野生型マウスを48個体ずつ準備し、それぞれを4つのグループに分け、飲水中に0ppm、67ppm、110ppm、200ppmのアクリルアミドを添加して4週間飼育し、アクリルアミドの影響を調べた。

まず、運動機能の評価試験であるlanding foot-spread testを行った。この試験は、地面から15cmの高さからマウスを落下させ、着地したときの後肢同士の距離を計測する試験で、後肢が離れていればいるほど運動機能が低いと判断される。その結果、Nrf2ノックアウトマウスではアクリルアミド曝露により着地時の後肢の距離は有意に大きくなり、その差は用量が増えるほど顕著になる一方、野生型マウスではそのような傾向はみられなかった。重回帰解析からアクリルアミドの投与量とNrf2遺伝子欠失は有意な交互作用があることも示され、遺伝子型がアクリルアミド曝露による影響を決定することが示唆された。

Nrf2欠損でノルアドレナリン作動性軸索の密度減少、ミクログリアの活性上昇

次に、免疫組織化学染色を行い、ノルアドレナリンおよびセロトニン(5-HT)作動性軸索と、ミクログリアの活性化に特徴的なIba-1陽性ミクログリアの前頭前皮質における分布を調べた。ノルアドレナリンやセロトニン(5-HT)などのモノアミンは、中枢神経系および末梢神経においてさまざまな生理学的機能や恒常性の維持に関わっており、神経毒の重要な標的となる。

その結果、前頭葉皮質のノルアドレナリン作動性軸索の密度は、Nrf2ノックアウトマウスおよび野生型マウスの両方で、アクリルアミド投与用量依存的に減少したが、同じ用量を投与したマウス同士を比較すると、野生型よりもNrf2ノックアウトマウスの方がノルアドレナリン作動性軸索の密度の減少が著しく、Nrf2ノックアウトマウスの方がアクリルアミドの神経毒性に対して感受性が高いことが示唆された。セロトニン(5-HT)作動性軸索の密度も、同様の傾向を示した。

Iba-1陽性ミクログリアの面積および突起の長さは、Nrf2ノックアウトマウスおよび野生型マウスの両方で、アクリルアミド投与用量依存的に増加したが、Nrf2ノックアウトマウスでは200ppm群で特にミクログリアの面積と突起の長さが増加していたことから、Nrf2ノックアウトマウスにおいてミクログリアの活性が上昇していると示唆された。

Nrf2欠損で抗炎症遺伝子発現抑制、炎症誘発性サイトカイン遺伝子発現増強

さらに、前頭葉皮質において、抗酸化物質、炎症反応の促進、抗炎症に関わる遺伝子のリアルタイム定量PCRを行った。その結果、Nrf2遺伝子欠失は、抗炎症マーカー遺伝子群および抗酸化遺伝子群のmRNAの発現上昇を抑制する一方、アクリルアミドによって誘導される炎症誘発性サイトカインイン遺伝子群のmRNAの発現上昇は増強することも示された。具体的には、抗酸化遺伝子であるNQO1やSOD1、HO-1、抗炎症遺伝子であるArg1、Fizz1、Chi3l3、IL-4Rα、、TGFβ1のmRNAの発現上昇の抑制と、炎症誘発性サイトカインであるIL-1β、TNF-α、iNOSのmRNAの発現上昇の増強が確認された。

認知症の環境要因の解明につながる可能性

アクリルアミドと同様の性質をもつ親電子性物質は大気を含む環境中に多く存在し、疫学研究は大気汚染がアルツハイマー病、認知症の発症・進行と関係していることを示している。「今回の研究が認知症の環境要因の解明と認知症予防法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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