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日本人男性対象の調査で、お酒に強い人が糖尿病になりやすいメカニズムを解明-順大

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2021年06月18日 AM11:30

アルコールに強い遺伝子型だと、なぜ糖尿病が発症しやすいのか?

順天堂大学は6月9日、正常体重の日本人男性約100人を対象にした調査から、アルコールに強い遺伝子型を持った人は、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きが悪くなり、空腹時血糖値が高くなる可能性を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史先任准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

日本人を含む東アジア人は、肥満ではなくても糖尿病になりやすいことが知られている。実際、東アジア各国の2型糖尿病患者の平均体格指数(body mass index; BMI)は25kg/m2未満であることが多く、その原因の一部は、東アジア人の遺伝的素因が関係していると考えられている。

この点に関して、近年、東アジア人43万3,540人のゲノムワイド関連研究が行われ、アルコールへの耐性(強さ)を規定する遺伝子型として知られる、ALDH2遺伝子多型が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として新たに同定され、アルコールに強いタイプの遺伝子型を有する男性は、糖尿病になりやすいことが報告された。しかし、「アルコールに強い遺伝子型だと、なぜ糖尿病が発症しやすいのか」については不明な点が多く、研究グループはそれを解明すべく研究を行った。

飲酒量が多いと肝臓でのインスリン感受性が低下し、血糖値上昇を引き起こす可能性

研究では、BMIが正常範囲内(21~25kg/m2)の日本人男性94人を対象に、ALDH2遺伝子型と、インスリン感受性や代謝における各パラメーターとの関連性を評価。インスリン感受性の測定には10時間以上を要する2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法と呼ばれる特別な検査法を用いた。同検査法による正常体重の男性を対象にした100人規模の調査は、世界初の試みだという。その後、参加者の代謝的特徴をアルコールに強い遺伝多型(ALDH2 rs671G/G)を持つハイリスクグループ(53人)と、その他の遺伝子型(ALDH2 rs671G/AまたはA/A)のローリスクグループ(41人)に分けて比較した。

その結果、ハイリスクグループでは1日に18.4g(中央値)のアルコール(ビール370ml程度)を摂取し、ローリスクグループの摂取量12.1g(ビール240ml程度)の約1.5倍となっていたが、体脂肪量、肝脂肪量や肝機能などにはグループ間で有意な差は認められなかった。しかし、空腹時血糖値はハイリスクグループでは、97.5±7.9mg/dLで、ローリスクグループの93.5±6.2mg/dLに比べ有意に高いことが明らかとなり、ハイリスクグループでは、太ってはいないものの飲酒量が多く、空腹時血糖値が高いことがわかった。そこで、ハイリスクグループで血糖値が高くなるメカニズムを解析したところ、ハイリスクグループでは肝インスリン感受性と、グルコースクリアランスが低下しており、その一部は飲酒量の多いことが関連していた。実際に、ハイリスクグループであっても、飲酒量が1日30g未満であると30g以上の人に比べて空腹時血糖値が低く、肝臓のインスリン抵抗性も比較的良好であることも明らかとなった。

以上の結果から、アルコールに強い遺伝子型の男性では飲酒量が多いことにより、肝臓でのインスリンの効きやグルコースクリアランスが低下し、血糖値上昇を引き起こす可能性があることが世界で初めて明らかとなり、これがアルコールに強い遺伝子多型(ALDH2 rs671G/G)の人で糖尿病発症リスクが高くなる原因の一つと考えられるとしている。

アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に効果的

日本人では、特にBMIが22kg/m2以下の男性において、適量の飲酒でも糖尿病のリスクが高まることが指摘されているが、研究グループは過去に、飲酒習慣のある男性において1週間の禁酒が肝臓のインスリン抵抗性の改善と空腹時血糖値の低下をもたらすことを明らかにしている。以上のことから、アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に効果的であると考えられる。

「アルコールに強いからたくさん飲んでも大丈夫というわけではなく、飲める人は飲酒量に特に注意が必要だ。今後も、アジア人が生活習慣病になりやすい体質であることの解明と適切な予防法開発に向けて取り組んでいく」と、研究グループは述べている。

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