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インスリンの経口投与を可能にする方法を開発-熊本大

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2021年03月24日 PM12:45

糖尿病患者のQOL向上に経口インスリンの創薬が望まれる

熊本大学は3月19日、独自に見出した「小腸透過環状ペプチドDNP(DNPペプチド)」をインスリンに添加剤として用いることで、インスリンの小腸吸収を促進させ、経口投与によりマウスの血糖値を低下させることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部の伊藤慎悟准教授、大槻純男教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Pharmaceutics」に掲載されている。


画像はリリースより

インスリン療法は、インスリン製剤の自己注射を行うことで不足するインスリンを体外から補い、血糖コントロールを図る糖尿病治療法である。しかし、インスリン自己注射は痛みを伴うなど、多くの糖尿病患者にとって治療を続ける上で大きな負担となっており、糖尿病患者のQOL向上のために経口インスリンの開発が強く望まれている。しかし、インスリンが発見されてから100年になるにもかかわらず、経口インスリンは開発されていない。その大きな理由として、インスリンが小腸から吸収されず、消化管で分解されてしまうという点がある。

今回研究グループは、この問題に対して、独自に見出した小腸透過環状ペプチドである「DNPペプチド」と、亜鉛添加によって作製した「インスリン6量体」を用いて解決することを目指した。

D体DNPペプチド、L体アミノ酸で合成したL体DNPペプチドよりも強い血糖降下作用

研究グループは、DNPペプチドの消化管分解を抑制するため、D体アミノ酸を用いて小腸透過環状ペプチドDNP(D体DNPペプチド)を合成した。また、インスリンの消化管分解を抑制するために、塩化亜鉛を添加してインスリン6量体(亜鉛インスリン6量体)を作製した。

この混合液を、野生型マウスの腸管内に直接投与した結果、投与後5分から門脈血中にてインスリンが検出され、投与後15分から60分にかけて血糖値が低下し、この血糖値の低下は少なくとも投与後120分まで持続したことがわかった。同混合液を経口投与したところ、投与後15分から血糖値の低下が観察され、血糖降下作用は投与後120分まで持続した。両方の投与法において、D体DNPペプチドはL体アミノ酸で合成したL体DNPペプチドよりも強い血糖降下作用を示した。さらに、糖尿病モデルマウスに同混合液を腸管内および経口投与したところ、投与後30分から血糖値の低下が観察された。

D体DNPペプチドを添加したインスリン製剤をマウスに経口投与で血糖降下

多くのインスリン注射剤には亜鉛添加によって作製したインスリン6量体が含有されている。そのため、これまでの研究結果から、D体DNPペプチドをインスリン注射剤に添加するだけで経口インスリンが開発可能であることが考えられた。そこで、インスリン注射製剤(Humulin3/7)にD体DNPペプチドを添加し、マウスに経口投与したところ、実験で作製した亜鉛インスリン6量体と同様に血糖降下作用が観察された。これらのことから、既存のインスリン注射製剤にD体DNPペプチドを添加するだけで、経口インスリン開発が可能であることが示唆された。

「今回の研究成果から、D体DNPペプチドを用いた経口インスリン開発の基盤構築ができた。今後、投与法の最適化によって、さらにインスリンの小腸吸収を促進させる方法を開発することで、経口インスリン創薬に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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