CTEPH患者834人対象、1980年~2023年を3期分類で全死亡率の変化を検討
国立循環器病研究センターは7月18日、同センターの「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」患者834名を対象に、治療方法の進歩に応じて1980年から2023年までを3期に分類し、全死亡率の変化を検討した結果、最近10年の長期生命予後が大幅に改善していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター肺循環科の喜古崇豊医師、大郷剛特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Respiratory Journal」Volume 66, Issue 1」に掲載されている。

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指定難病CTEPHは、肺動脈に血栓が残り、血流が慢性的に悪くなり、肺高血圧を引き起こす病気。進行すると右心不全になり、生命に関わる。以前は有効な治療法が少なく、多くの患者が適切な治療を受けられなかった。しかし、2000年に肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が開始され、2010年にはバルーン肺動脈形成術(BPA)が登場し、手術を受けられない患者への新たな治療となった。さらに、肺高血圧症の治療薬も開発が進み、PEA、BPA、薬物治療を適切に組み合わせた「マルチモーダル治療(Multimodal treatment)」が重要であることが分かってきた。
今回の研究では、1980~2023年までに国立循環器病研究センターで診断・治療されたCTEPH患者834人を対象に、予後の変化を検討。対象者を3つの時代)に分類し、全死亡率の変遷を解析した。生存率はKaplan-Meier解析を、死亡リスクはCox比例ハザード解析をそれぞれ用いた。なお、時代分類は、初期(1980年4月〜1999年12月:CTEPHに対する治療方法が確立されていない時代)、中期(2000年1月〜2010年9月:PEAの手技が確立された時代)、後期(2010年10月〜2023年12月:BPA・肺高血圧症治療薬が本格的に導入され、マルチモーダル治療が確立された時代)である。
5年生存率は初期68%→後期93%へ改善、死亡リスクは87%低下
研究の結果、初期は治療法があまりなく、65%の患者が適切な治療を受けていなかったが、中期では治療を受けられない患者は36%、後期では3%となった。「マルチモーダル治療」を受けた患者の割合は、初期では0%、中期では8%、後期では58%にまで増加した。また、5年生存率は初期の68%から中期では85%、後期では93%へと改善し、時代が進むにつれて生存率が有意に向上していることが示された。また、死亡リスクは、中期は初期と比べて71%低下、後期は中期と比べて55%、初期との比較では実に87%低下することが示された。
カテーテル・薬物治療の発展に伴い、長期生命予後が大幅に改善
今回の研究により、CTEPHにおいて、PEA、BPA、薬物治療の発展に伴い、国循における過去10年の長期生命予後が大幅に改善していることが明らかになった。それぞれの治療方法の進歩や、治療の組み合わせによる「マルチモーダル治療」の発展が、予後向上に大きく寄与した可能性が高いと考えられる。今後は、どの患者にどの治療を適用すべきかを明確にし、個別化医療の最適化を図ることが求められる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース


