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体内時計とストレスによる新しい睡眠・覚醒調節機構を発見-名大ほか

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2020年11月12日 PM12:15

どの神経回路を介して体内時計は睡眠、覚醒を調節するのか

名古屋大学は11月9日、体内時計が睡眠・覚醒を調節する新たな神経回路を同定したと発表した。これは、同大環境医学研究所の小野大輔講師、山中章弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

地球の自転により生じる24時間周期の明暗環境の中、ヒトは睡眠・覚醒を毎日繰り返す。しかし、この睡眠・覚醒リズムは、恒常暗(明暗周期がない状態)などの一定環境下でも、およそ24時間毎に繰り返し見られる。この24時間の自律的なリズムを、「」と呼び、体内時計である概日時計により調節されている。ヒトの体を構成するすべての細胞には、この概日時計が備わっており、遺伝子発現レベルで24時間を刻んでいる。その中でも、概日時計の中枢が、脳内の視床下部に位置する「」に存在することが知られている。視交叉上核を破壊すると、睡眠・覚醒の24時間のリズムは消失することから、哺乳類における睡眠・覚醒の概日リズム調節に、視交叉上核の神経が中心的に機能している。

このように、睡眠・覚醒は概日時計により調節されている一方、生命の危機に直面した際には、眠い夜中であっても一時的に覚醒することで、その危機を回避する行動を取る。つまり、睡眠・覚醒は、概日時計による調節を受けつつも、緊急事態にはその情報をシャットダウンし、一時的に覚醒度を保つシステムが備わっている。しかし、概日時計中枢である視交叉上核から、どの神経回路を介して睡眠・覚醒を調節しているのか、さらに緊急事態に機能する覚醒維持メカニズムとの関係性は全くわかっていない。

光でマウスの室傍核CRF神経を活性化すると覚醒時間が増加

研究グループは、光遺伝学を用いた細胞機能操作や光イメージングといった最新の技術を用い、この問題を検討した。初めに、マウスを用いて視交叉上核の神経細胞が脳のどの領域に軸索を伸ばしているかを探索。その結果、視床下部の室傍核領域に、視交叉上核の神経からの密な軸索が伸びていることが確認された。室傍核には複数の種類の神経細胞が密集していることがわかっている。

これを踏まえ、ストレス応答に関わる神経細胞として知られている、コルチコトロピン放出ホルモン産生神経(CRF神経)に着目した。この神経の機能を明らかにするため、光遺伝学を用い、室傍核CRF神経を光で活性化させ、睡眠・覚醒の変化を検証した。すると、室傍核CRF神経の活性化により、覚醒時間が増加することがわかった。また、この室傍核CRF神経の興奮による覚醒時間の増加は、視床下部外側野のオレキシン神経を介していることも明らかになった。

一方、薬理遺伝学を用いて室傍核CRF神経の活動を抑制すると、覚醒の時間が減少し、この神経を脱落させると活動量の低下がみられた。また、室傍核CRF神経は、覚醒の開始に活動が高まることが、ファイバーフォトメトリー法を用いたカルシウム計測により確認された。つまり、室傍核CRF神経が覚醒時に活性化し、オレキシン神経を活性化することで、覚醒度が上昇することが明らかになった。

CRF神経の活動は、視交叉上核の神経から遊離されるGABAにより調節

次に、視交叉上核の神経による、室傍核CRF神経の活動調節について検証した。光遺伝学と光イメージングを組み合わせ、視交叉上核の神経を活性化すると、室傍核CRF神経が抑制されることがわかった。さらに、視交叉上核による室傍核CRF神経の活動抑制には、抑制性神経伝達物質であるGABAが関与していることが判明。これらの結果から、日中は視交叉上核の神経活動が増加し、その結果、室傍核CRF神経の活動が抑制され、覚醒度が抑えられているが、夜間になると視交叉上核の活動が減少するので、室傍核CRF神経の活動が増加し、オレキシン神経を介し覚醒度が増加していることが明らかになった。

睡眠障害は現代における大きな問題となっている。しかしその原因は多岐にわたり、睡眠障害の治療法にはさらなる研究が求められている。今回研究グループは、夜行性動物であるマウスを用い、概日時計による睡眠・覚醒調節に関わる神経回路を発見し、研究結果は、ストレスや概日時計の破綻による不眠や睡眠障害の新たな治療法の開発に貢献すると予想される。「私たちヒトのような昼行性動物における睡眠・覚醒調節メカニズム解明にはさらなる研究が必要だと考えられる」と、研究グループは述べている。

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