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新規遺伝子ネットワーク解析で、新しいアルツハイマー病関連遺伝子を同定-阪大ほか

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2020年01月29日 AM11:15

アルツハイマー病患者の脳で観察されるNFT

大阪大学は1月24日、全ての脳部位において、アルツハイマー病の進行とともに遺伝子ネットワークが崩壊していくことを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の菊地正隆特任講師(常勤)、中谷明弘特任教授(常勤)(ゲノム情報学共同研究講座)らの研究グループが、国立長寿医療研究センター関谷倫子室長、飯島浩一部長、新潟大学脳研究所原範和特任助教、池内健教授と共同で行ったもの。研究成果は、英国科学誌「Human Molecular Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより

アルツハイマー病は認知症の中で最も罹患者の割合が多く、その数は年々増加している。アルツハイマー病患者の脳では神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)と呼ばれる異常なタンパク質の凝集体が観察され、神経細胞内に蓄積したNFTは、神経細胞死を誘導することが知られている。NFTは、記憶を司る海馬や嗅内皮質に蓄積し始め、徐々に新皮質へ蓄積が拡大していく。それに比例し、患者の認知機能も低下することが知られており、この進行ステージはBraak NFTステージと呼ばれている。Braak NFTステージの進行に伴い、細胞内の遺伝子の発現や遺伝子間の関係も動的に変化すると考えられるが、その全容は明らかになっていない。

多くの遺伝子と相互作用するハブ遺伝子として、RAC1遺伝子を同定

研究グループは、71名のさまざまなBraak NFTステージの患者死後脳から、異なる3つの脳部位(嗅内皮質、側頭皮質、前頭皮質)を取得し、エクソンアレイ法による網羅的な遺伝子発現解析を実施した。ここで得られた遺伝子発現データを、公共のタンパク質間相互作用ネットワークデータと組み合わせることで、各Braak NFTステージ、各脳部位で発現する遺伝子ネットワークを構築した。脳部位ごとにBraak NFTステージの進行に伴う遺伝子ネットワークの構造を解析した結果、すべての脳部位で統計的有意に遺伝子ネットワークを構成するリンクが消失していき、ネットワーク全体が壊れていくことが判明。さらに解析を進めた結果、嗅内皮質において、多くの遺伝子と相互作用するハブ遺伝子として、RAC1遺伝子を同定した。

RAC1遺伝子は、特に記憶を司る嗅内皮質において、Braak NFTステージの進行とともに発現が低下し、その傾向は公共データセットでも再現された。同遺伝子が神経変性を誘導するのかどうかを調べるために、ショウジョウバエにおいて同遺伝子の発現を低下させた結果、加齢依存的に神経変性が生じることが明らかになった。このことから、RAC1遺伝子は神経変性の原因となり得ると考えられた。

新規バイオマーカー開発や、創薬における標的遺伝子探索に貢献する可能性

次に、RAC1遺伝子の発現低下を誘導する因子として「マイクロRNA」に注目し、網羅的な発現解析を行った。マイクロRNAは、相補的な配列をもつメッセンジャーRNAと結合することで、タンパクへの翻訳を阻害することが知られている。そこで、RAC1遺伝子の発現と逆相関するマイクロRNAを探索した結果、hsa-miR-101-3pというマイクロRNAは、RAC1遺伝子の配列と部分的に相補的な配列を有し、また、嗅内皮質において最も強くRAC1遺伝子と負に相関していることがわかった。

さらに、hsa-miR-101-3pが実際にRAC1遺伝子の発現を抑制するのかを調べるために、ヒト株化神経細胞においてhsa-miR-101-3pを過剰発現させた結果、コントロールと比べ、統計的有意にRAC1遺伝子の発現が低下することが明らかとなった。このことから、嗅内皮質では、BraakNFTステージの進行とともにhsa-miR-101-3pの発現が増加、それによってRAC1遺伝子の発現が低下し、神経変性が誘導されるという新たな発症機序の可能性を見出した。

今回、異なる脳部位におけるBraak NFTステージの進行に伴う遺伝子ネットワークの変化を調べることにより、新たなアルツハイマー病関連遺伝子を見出した。今回の研究成果により、アルツハイマー病の発症機序の解明に貢献することが期待される。研究グループは、「研究の進展により、新規のアルツハイマー病関連遺伝子探索に有用であり、新規バイオマーカー開発や創薬における標的遺伝子探索等に役立つと期待される」と、述べている。

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