歩行中の別作業で脳卒中患者の転倒リスク増加、通常歩行との違いは未解明
畿央大学は11月16日、通常歩行時の体幹の揺れや筋活動のパターンが、二重課題(歩行中に計算などを行う課題)歩行時の安定性に関係していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大健康科学研究科の北郷龍也氏、蓮井成仁氏、同大ニューロリハビリテーション研究センターの森岡周教授、日本福祉大学健康科学部の水田直道助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Electromyography and Kinesiology」に掲載されている。

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脳卒中を経験した人の多くは、歩く際にバランスを崩しやすくなったり、転びやすくなったりすることが知られている。さらに、歩きながら別の作業(例えば、計算や会話など)を同時に行う二重課題歩行では、よりバランスを失いやすくなる。しかし、脳卒中後の患者がなぜ、このような不安定さを感じやすいのか、通常の歩行との関連性については十分に解明されていなかった。
研究グループはこのような背景のもと、二重課題歩行時の不安定さを、単一課題歩行時の特性から予測できるかを検証した。
通常歩行時の速度・体幹の揺れ・体幹動揺の規則性が、不安定性の予測因子に
研究では、脳卒中後の患者30人を対象に、単一課題歩行(通常の歩行)と二重課題歩行(歩行中に引き算を行う)の両方において、慣性センサーと筋電図を用いて体幹の動きや筋活動を測定した。
その結果、二重課題歩行時には通常歩行時に比べて歩行速度が低下し、体幹の揺れ(RMS)や体幹動揺の規則性(サンプルエントロピー)、下肢筋の共収縮が増加することが明らかになった。
また、単一課題歩行から二重課題歩行における歩行速度低下率は臨床評価と有意な相関を示さなかったが、同時収縮指数、サンプルエントロピー、RMSにおいては有意な負の相関を示した。
さらに、通常歩行時の歩行速度、体幹の揺れ、体幹動揺の規則性が、二重課題歩行時の不安定性を予測する因子であることを統計的に示した。
脳卒中リハビリテーション、歩行の個別化治療の設計に期待
今回の研究の新規性は、これまで歩行中の認知課題が与える影響だけに着目されていた「二重課題における問題」を、通常時の歩行特性データによって予測できる可能性を示した点にある。これにより、脳卒中リハビリテーションの新戦略や、歩行の個別化治療の設計に貢献できる可能性がある。
「今後は、単一課題歩行の指標を活用した新規リハビリテーションの効果検証と、認知機能負荷に対応したトレーニングプログラムの開発を行う予定だ」と、研究グループは述べている。
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