Dnmt1は、骨の成長にどのような役割を担っているのか?
愛媛大学は10月29日、骨の成長を適切に調節する新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大先端研究院プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門・大学院医学系研究科病態生理学講座の柳原裕太特定助教、今井祐記教授らの研究グループと、同大大学院医学系研究科整形外科学講座の髙尾正樹教授、九州大学生体防御医学研究所の馬場健史教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」の電子版に掲載されている。

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軟骨細胞(chondrocyte)は、骨や体の骨格ができるときに重要な役割を果たす。腕や脚など多くの骨は、「軟骨内骨化」という仕組みで作られる。軟骨内骨化は、軟骨細胞が集まり、骨の基になる「軟骨の足場」を作る方法である。その後、軟骨細胞が成熟して、最終的に骨に置き換わることで、骨が成長する。
細胞がさまざまな役割を果たすために成熟する過程には、「エピジェネティクス」という、DNAの配列を変えずに遺伝子の働きを調節する仕組みが関わる。その中で特に重要なのが「DNAメチル化」という仕組みである。DNAメチル化は、遺伝子のスイッチをオフにして働きを抑える役割がある。
DNAメチル化状態を正しく維持するためには「Dnmt1(DNA methyltransferase1)」という酵素が必要だ。しかし、Dnmt1が骨や軟骨でどのように働くかはこれまで不明だった。そこで、今回の研究では、Dnmt1が骨の成長にどのような役割を担っているのか明らかにすることを目的とした。
DNMT1の遺伝子の変化は「身長」と特に強く関係
研究グループは、骨の発達におけるDnmt1の役割を調べるため、「MSK-KP」という筋骨格系データベースを使用し、DNMT1とヒトの特徴との関係を調べた。その結果、DNMT1の遺伝子の変化は「身長」と特に強く関係していることがわかった。
そこで、四肢の間葉系細胞(軟骨細胞の前駆細胞)特異的に、Dnmt1を欠損させるマウス(変異マウス)を作出し、四肢の骨の長さを観察した。その結果、対照マウスと比較して、変異マウスでは、脚の骨である脛骨の長さが半分以下に短縮した。
Dnmt1欠損により軟骨細胞の成熟が促進
1週齢のマウスの発達途中の脛骨を、より詳細に解析した結果、Dnmt1は骨の伸長に重要な成長板軟骨の増殖軟骨層(PZ)に存在していることが明らかになった。さらに変異マウスではPZの割合が減少し、成熟した軟骨である肥大軟骨層(HZ)の割合の増加に加え、骨へと置き換わる過程である石灰化の亢進が観察された。これらの結果は、変異マウスで軟骨細胞の成熟が促進していることを示している。
Dnmt1が細胞内のエネルギー代謝に関わる遺伝子のスイッチングに関係していると判明
このDnmt1が減少したことを起因とする成長板軟骨の異常および骨長の短縮の原因を究明するために、対照マウスと変異マウスの関節軟骨のRNAシーケンスおよびメチル化DNA領域シーケンスを実施し、Dnmt1が直接発現を制御している遺伝子の同定を試みた。その結果、Dnmt1は細胞内のエネルギー代謝に関わる遺伝子のスイッチングに関係していることが明らかとなった。
実際に、変異マウスの軟骨細胞内エネルギー代謝は亢進しており、エネルギー代謝を抑制すると、変異マウスで促進していた軟骨細胞の成熟を抑えることができた。
ヒト軟骨細胞でもDnmt1減少によるエネルギー代謝亢進と成熟促進を確認
最後に、このDnmt1によるエネルギー代謝制御機構がヒトの軟骨細胞においても働いているのか確認するため、手術で切除された軟骨組織から軟骨細胞を単離して実験を行った。ヒトの軟骨細胞のDnmt1を3パターンの実験的手法で減少させると、マウスと同様にエネルギー代謝が亢進し、軟骨細胞の成熟の指標(オステオカルシン)も増加した。
骨の発育不良や変形性関節症などの予防・治療法開発に期待
今回の研究により、Dnmt1はエネルギー代謝を制御し、骨の成長を正常に促していることが解明された。「本研究は、遺伝的要因だけでなく、後天的な要因(栄養の種類等)により軟骨細胞の機能を制御して骨の長さを決定することを提示しており、骨の発育不良や変形性関節症などの予防・治療方法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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