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がん治療新技術Trigger HIFU、マウス転移巣でアブスコパル効果-東京薬科大ほか

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2025年11月21日 AM09:00

熱凝固による従来式HIFU、転移巣に対する効果は限定的だった

東京薬科大学は10月31日、キャビテーション気泡を制御する新しい強力集束超音波技術「Trigger HIFU」を用いて、マウスで治療部位だけでなく遠隔部位の未治療腫瘍も縮小させることに成功したと発表した。この研究は、同大の多田塁准教授、根岸洋一教授らの研究グループと、ソニア・セラピューティクス株式会社の共同研究によるもの。研究成果は、「International Immunopharmacology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がんは日本における死因の第1位であり、患者に負担の少ない非侵襲的かつ効果的な治療法の開発が強く求められている。外科手術や放射線療法などの局所治療は、体への負担が大きく、特に転移したがんへの対応が困難である。化学療法は全身に作用するため、転移がんにも用いられるが、強い副作用や効果が限定的な場合があるという課題がある。

近年、体外から超音波を集束させて腫瘍を破壊する「強力集束超音波(HIFU:High-Intensity Focused Ultrasound)」が、メスを使わない治療法として注目を集めている。HIFUは子宮筋腫や前立腺がんなどの治療に既に用いられているが、これまでは主に局所的な腫瘍破壊にとどまっており、転移巣への効果は限定的だった。

がん免疫療法の分野では、ある部位のがん治療が免疫系を活性化させ、治療していない遠隔部位のがんまで縮小させる「アブスコパル効果」が注目されているが、従来のHIFUで、この効果を十分に引き出すことは困難だった。これは、従来のHIFUは主に60~100℃の高温で腫瘍を熱凝固させるが、この高温が免疫を活性化する重要な分子を変性させてしまい、免疫応答を抑制する可能性があるためだ。

気泡を利用した「Trigger HIFU」で遠隔部位の腫瘍を破壊できるか?

そこで今回の研究では、Trigger HIFU技術を用いた。この技術は、高強度の短パルス(Trigger Pulse)でキャビテーション気泡を発生させ、その後の低強度持続波(Sustaining Wave)で気泡を維持するという独自の方式。従来のHIFUが主に高温(60~100℃)での熱凝固で腫瘍を破壊するのに対し、Trigger HIFUは「キャビテーション気泡」という微小な気泡を発生させることで、適度な熱による効果と気泡振動による機械的な効果の両方を統合的に実現可能である。

研究グループは、まずマウスを使った実験で新しい超音波技術の効果を確認し、次にその効果がなぜ現れるのか、体の中でどのような仕組みが働いているのかを詳しく調べた。さらに、この技術を他の治療法と組み合わせることで、より高い効果が得られるかも検証した。

マウス大腸がんモデルで、治療部位だけでなく遠隔部位の未治療腫瘍も縮小

マウスの両側の腹部に大腸がん細胞(MC38)を移植し、右側に大きな腫瘍、左側に小さな腫瘍を作製した。右側の腫瘍のみにTrigger HIFU治療を実施し、両側の腫瘍体積の変化を観察した。

その結果、治療を行った右側の腫瘍だけでなく、治療を行っていない左側の腫瘍も有意に縮小した。組織学的解析では、治療した腫瘍において腫瘍構造の著しい破壊と大量の免疫細胞浸潤が観察された。さらに、Trigger HIFU治療により、腫瘍細胞がアポトーシスを起こすことがTUNEL染色により確認された。また、治療していない遠隔部位の腫瘍でもTUNEL陽性細胞が増加しており、全身性の免疫応答が腫瘍細胞死を誘導していることが示された。

未治療側の腫瘍でも免疫細胞の浸潤・活性化を確認

次に、フローサイトメトリー解析を行ったところ、治療側だけでなく未治療側の腫瘍においてもCD8陽性細胞傷害性T細胞およびCD11c陽性樹状細胞が有意に増加していることが明らかになった。

フローサイトメトリーデータのt-SNE解析を行ったところ、治療後の腫瘍内に15種類の異なるT細胞サブセットと8種類の樹状細胞サブセットが存在することがわかった。特に、CD8+CD44+CD62Lの表現型を持つエフェクターT細胞や、CD8+CD44+CD62L+のセントラルメモリー様T細胞が顕著に増加していた。これらのポピュレーションには、CD4も陽性のT細胞が存在していた。CD4とCD8のダブル陽性T細胞は腫瘍免疫活性が強いことが知られている。さらに、樹状細胞はF4/80陽性の樹状細胞様マクロファージであることが判明した。

治療効果にはCD8陽性T細胞が必須、アブスコパル効果の分子機序が明らかに

CD8陽性T細胞を抗体で除去すると、未治療側の抗腫瘍効果が完全に消失した。これにより、CD8陽性T細胞がTrigger HIFUによる遠隔効果に不可欠であることが証明された。

免疫チェックポイント阻害薬との併用で抗腫瘍効果が顕著に増強

治療後にPD-1を高発現する(疲弊した)T細胞が増加することが観察されたため、Trigger HIFUと抗PD-1抗体を併用したところ、単独治療を大きく上回る抗腫瘍効果が得られることが明らかになった。

非侵襲かつ原発巣と転移巣の両方に対応できる新たな治療法として期待

今回の研究により、Trigger HIFU方式が、従来の熱凝固主体のHIFUよりも強力な免疫応答を誘導できる可能性が示された。また、局所治療が全身性の抗腫瘍免疫を誘導するアブスコパル効果のメカニズムを、詳細な免疫学的解析により明らかにした点でも重要である。この新しい治療法は、手術が困難な患者や高齢・持病などにより体に負担をかけられない患者、転移のあるがん患者などへの応用が期待される。

「本研究はマウスを用いた基礎研究だが、今後は、大腸がん以外のさまざまな種類のがん(肺がん、膵臓がんなど)でも同じ効果が得られるかを確認する。さらに、化学療法剤(ゲムシタビンなど)、他の免疫療法薬(抗CTLA-4抗体など)や、がんワクチンなどとの組み合わせについても研究を進めていく」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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