抗酸化作用など知られる薬効植物、脂肪細胞に対する包括的評価は不十分
大阪公立大学は10月22日、ブラッククミンシードの抗肥満効果を細胞実験およびヒト臨床試験の両面から検証したと発表した。この研究は、同大大学院生活科学研究科の小島明子准教授、バングラデシュChattogram Veterinary and Animal Sciences UniversityのShamima Ahmed助教(同大生活科学研究科博士後期課程3年)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Food Science & Nutrition」にオンライン掲載されている。

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肥満は世界的な健康課題であり、糖尿病や脂質異常症、心血管疾患など生活習慣病の主要なリスク要因とされている。その背景には、脂肪細胞が過剰に分化・蓄積される脂肪生成(アディポジェネシス)の過程が深く関与している。
ブラッククミン(Nigella sativa、和名:クロクミン、カロンジ)のシードは南アジアや中東を中心に薬効植物として古くから伝統医療で用いられ、抗酸化、抗炎症、抗糖尿病、抗がん作用などさまざまな機能性が報告されている。研究グループは、その主要成分であるチモキノン(Thymoquinone)が脂肪細胞分化を抑制することを、先行研究で明らかにした。しかし、その作用を細胞レベルとヒト臨床の両方で包括的に評価した研究は限られていた。
マウスの前駆脂肪細胞で脂肪滴の蓄積を大幅に抑制、細胞毒性も認めず
今回の研究では、ブラッククミンシードの抗肥満効果を細胞実験およびヒト臨床試験の両面から検証するために、まずマウスの前駆脂肪細胞(3T3-L1)を用いた実験を実施した。メタノール抽出されたブラッククミンシードエキスを投与したところ、脂肪滴の蓄積が大幅に抑制されることが確認された。また、脂肪細胞分化に不可欠な転写因子であるC/EBPα、C/EBPβ、PPARγの発現が顕著に低下しており、分子レベルでの脂肪生成抑制メカニズムが裏付けられた。さらに、細胞毒性試験では有害な影響は認められず、安全性の高さも確認できた。
参加者42人のランダム化比較試験で中性脂肪など有意に低下、日常摂取にも適する
次に、バングラデシュの医療研究機関であるChattogram Veterinary and Animal Sciences UniversityのChittagong Medical College HospitalおよびKarnafully Diabetic Centerとの国際共同研究において、ヒトにおけるブラッククミンシードの効果をランダム化比較試験によって検証した。
参加者42人(摂取群22人、コントロール群20人)のうち、摂取群22人が1日5gのブラッククミンシード粉末を8週間摂取し、血中脂質を評価した。その結果、摂取群では中性脂肪(TG)、LDLコレステロール、総コレステロールが有意に低下し、HDLコレステロールは上昇傾向を示した。加えて、CONAQ(Council on Nutrition Appetite Questionnaire)と呼ばれる食欲アンケート調査では、摂取による食欲低下などの負の影響は認められず、日常的に取り入れやすい食品素材であることが示された。
自然由来成分の効果を科学的に証明、食品・医療分野での応用に期待
今回の研究は、ブラッククミンシードが脂質代謝を改善し、肥満の進展を抑える可能性を明らかにした点で重要である。細胞実験での分子メカニズムの解明と、ヒト試験での実際の血中脂質改善効果を統合的に示したことにより、ブラッククミンシードが機能性食品として肥満や生活習慣病の予防に役立つ可能性が強く示唆された。また、この成果は自然由来成分を活用した新たな健康維持戦略の基盤となるものである。
「ブラッククミンシードは古来の知恵と現代科学が結びついた次世代の健康素材として、今後の食品・医療分野での応用が大いに期待される。今後は、より長期的かつ大規模な臨床試験や、インスリン抵抗性・炎症指標など包括的な代謝パラメータへの影響を検証することが課題である」と、研究グループは述べている。
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