早発型網膜ジストロフィーなど治療困難な乳幼児の重症眼疾患、病態解明が課題
国立成育医療研究センターは9月16日、CHARGE症候群に似た多発形態異常を伴う網膜ジストロフィーと、多発形態異常を伴わない網膜ジストロフィーの原因遺伝子の同定、それらの特性の解明に取り組み、いずれもCDK9遺伝子バリアントが原因である可能性を見出したと発表した。この研究は、同センターの仁科幸子眼科診療部長、吉田朋世眼科医員、深見真紀研究所副所長、黒澤健司副病院長、浜松医科大学医学部附属病院眼科の鳥居薫子助教、医化学講座の才津浩智教授、眼科学講座の堀田喜裕教授(研究当時、現:名誉教授)、大阪大学微生物病研究所の石谷閑特任助教、石谷太教授、慶應義塾大学医学部の小崎健次郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Human Genetics」に掲載されている。

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乳幼児の重症眼疾患の中には、先天白内障や先天緑内障など、早期発見・早期手術によって良好な視機能が発達する疾患がある。一方、依然として治療法が確立していない難病もあり、1歳までに発症するレーバー先天黒内障や2~6歳で発症する早発型網膜ジストロフィーなどが代表疾患である。これらは小児にきわめて重篤な進行性の視覚障害をきたす疾患群で、その病態解明が課題となっている。
一部の確立している治療は小児期に行うほど網膜感度の上昇が期待できるが、治療の適応となるのは、ごくわずかな患者だけである。研究グループは網膜ジストロフィーをはじめ、乳幼児期に発症する視覚難病の早期診断と遺伝子治療などの開発を目指した研究を続けており、今回その一環として研究を行った。
多発形態異常の有無に関わらずCDK9遺伝子の異なるバリアントが原因と判明
研究では、患者と両親を対象に末梢血を採取し、DNAを抽出し、患者と両親の全エクソームシークエンシングによる原因遺伝子の同定を行った。また、検出された遺伝子バリアントをサンガー法で確認した。研究グループは、前回の研究において、CHARGE症候群に似た多発形態異常を伴う網膜ジストロフィーにおいて、遺伝子発現制御に必須であるリン酸化酵素をコードするCDK9遺伝子において、CDK9A288T/R303Cバリアントを同定した。
今回、多発形態異常を伴わない網膜ジストロフィーにおいても同様の方法で原因遺伝子の同定と遺伝子バリアントの確認を行ったところ、同じCDK9遺伝子において、CDK9A288T/P321Sバリアントが同定された。
CDK9の酵素活性が多発形態異常の発症を決定する可能性
また、CDK9のリン酸化酵素活性を解析したところ、通常のCDK9のリン酸化酵素活性に比較して、A288T/R303Cバリアントは約70%低下、A288T/P321Sは約30%低下していた。CDK9のリン酸化酵素活性が、70%程度低下するバリアントの場合は多発形態異常発症を伴い、30%程度の低下に留まるバリアントの場合は多発形態異常発症を伴わないことから、リン酸化酵素活性の低下の程度に応じて、CHARGE症候群に似た多発形態異常の有無が決定される可能性が示唆された。
今回の研究成果から、CDK9遺伝子バリアントが、新たな先天異常症候群の原因であることが明らかになった。また、この症候群には、多彩な眼先天異常に加え、CHARGE症候群に似た多発形態異常の発症がある場合とない場合があることが判明し、CHARGE症候群に似た多発形態異常の発症の有無は、CDK9バリアントのリン酸化酵素活性の低下の程度に応じていることが示された。「この結果はCDK9遺伝子関連疾患の理解を深める上で重要な研究成果となる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


