経路統合能を評価できる検査なら、海馬に病変が及ぶ前にADに気づける可能性
藤田医科大学は9月11日、3D仮想現実(VR)ナビゲーションで、アルツハイマー病(AD)の超早期変化を発見したと発表した。この研究は、同大、学習院大学、滋賀医科大学、量子科学技術研究開発機構、大阪公立大学、東京都立大学、名古屋大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Aging Neuroscience」に掲載されている。

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ADの最初期病変は、嗅内野への沈着から始まることが知られている。また、嗅内野は経路統合能(自己運動情報から現在位置を推定する能力)を担う。従来は、海馬が担う記憶などに関する高次脳機能試験がADに気づく検査として使われてきたが、経路統合能を評価できる検査方法を用いることで海馬に病変が及ぶ前にADに気づくことができる可能性がある。
そこで研究グループは今回、経路統合能を評価できる3D VRナビゲーション課題を用いて、血液AD関連バイオマーカーとの関係を調べた。
VRナビのエラー距離はADで上昇するp tau181、GFAP、NfL、年齢と有意に関連
研究では健常成人111人(22~79歳)に対し、3D VRナビゲーション課題を実施した。同課題では、周囲の景色の情報がほとんどない20バーチャルメーターの円形アリーナ内で「1→2→出発点に戻る」という試行を3回行い、その平均をエラー距離とした。また、一般的な高次脳機能検査・MRI・血液検査を同時に実施。血液検査ではAD関連バイオマーカーとして、p-tau181、GFAP、NfL、Aβ40/42、APOE ε4を評価した。
その結果、3D VRナビゲーション機器で評価したエラー距離は、ADで上昇することが知られている p tau181、GFAP、NfLおよび年齢と有意に関連することが証明された。
汎化性能は正解率0.74、医療検査の性能を測る物差しのAUCは0.73と合格点レベル
多変量解析ではp-tau181とGFAPが独立因子で、機械学習ではp-tau181が最重要予測因子だった。汎化性能は正解率0.74で、医療検査の性能を測る物差しであるAUCは0.73と合格点レベルだった(一つ抜き交差検証)。
最重要予測因子p tau181をAUC 0.86、感度91.7%、特異度77.8%で識別
さらに、経路統合能の誤差のみでp-tau181の上昇を(≥2.2 pg/mL)、AUC 0.86(100人中およそ86人を正しく見分けられる水準)、感度91.7%、特異度77.8%(ROC解析)とかなり信頼できるレベルで識別できたとしている。
MRIを用いて検討した嗅内皮質厚は年齢、エラー距離と負の相関を示したが、年齢調整後には有意差は消失した。このことから、構造変化より先行する機能変化を捉えた可能性が示唆された。
誰でも受けられる非侵襲的スクリーニングの実現を目指す
研究グループは「引き続き、エラー距離の年次変化を検討し、その特徴と意義を明示する。また、ベースラインにおけるエラー距離の異常が1~2年後の脳萎縮を予測できるかを前向きに検証している。さらに、タウPET所見と経路統合能や血液バイオマーカーとの関係を明らかにし、エラー距離の意義をより明らかなものとするように研究を進めている。今後これらの結果を踏まえ、社会実装を図り、誰でも受けられる非侵襲的スクリーニングの実現を目指す」と、述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース


