エミシズマブを基にした次世代型バイスペシフィック抗体
中外製薬株式会社は6月23日、血友病Aを対象に皮下投与製剤として開発中の、ヘムライブラ(一般名:エミシズマブ)を基にした次世代型のバイスペシフィック抗体「NXT007」について、初めての臨床データとなる第1/2相臨床試験(NXTAGE試験)のパートBデータを発表したと報告した。同データは、米国・ワシントンD.C.で開催中の国際血栓止血学会(ISTH:International Society on Thrombosis and Haemostasis)2025年会議において発表された。

NXT007は、血友病ではない人と同等の血液凝固能と簡便な投与を目指し、同社が創製・開発しているバイスペシフィック抗体である。活性型第IX因子と第X因子に結合し、活性型第IX因子による第X因子の活性化反応を促進することで、血友病Aで欠損または機能異常を来している第VIII因子の補因子機能を代替するよう設計されている。同剤は、独自の抗体エンジニアリング技術「FAST-Ig」が初めて適用され、ヘムライブラの可変領域を最適化することでより高い有効性を目指している。加えて、「ACT-Ig(R)」技術の適用により、PKプロファイルの改善を目指している。NXT007は、2022年8月にロシュが導入を決定し、現在、血友病Aを対象に第1/2相臨床試験を実施中、2026年には3つの第3相試験が開始される予定である。
インヒビター非保有の重症患者対象、パートBは投与量異なる4つのコホートを解析
NXTAGE試験はNXT007の安全性、薬物動態、薬力学、有効性を評価する多施設共同第1/2相臨床試験である。このうち、今回データを発表したパートBは、ヘムライブラによる治療を受けていないインヒビター非保有の重症血友病Aの患者(12歳以上65歳未満)に対する反復漸増投与パートである。パートBの参加者は4つのコホートに分けられ、4~6週の負荷投与後、4週ごとに異なる投与量で皮下への維持投与が行われた。パートBの主要解析は、各コホートで6人以上が16週以上のNXT007投与を受けた後に行われた。
NXT007血中濃度は用量依存的に増加、高用量コホートで年間出血率は0まで減少
NXT007の血中濃度は用量依存的に増加し、高用量のコホートB-3およびB-4では非臨床データから予測される血液凝固第VIII因子等価活性の正常レベルを期待できる血中濃度まで到達することが確認できた。維持投与期の治療を要する出血は、コホートB-3およびB-4では認められなかった。
試験前の年間出血情報は、試験開始前の24週間データを後ろ向きに収集し、年間出血率は、評価期間中に観察された出血回数を基に、1年間に換算して算出した。パートB各コホートにおける年間出血率は、コホートB-1(試験前:12.83、NXT007維持投与期:1.20)、コホートB-2(試験前:2.17、NXT007維持投与期:0.28)、コホートB-3(試験前:5.44、NXT007維持投与期:0)、コホートB-4(試験前:2.72、NXT007維持投与期:0)だった。
忍容性は良好で、投与中止や重大な有害事象なし
パートBにおけるNXT007の忍容性は良好であった。有害事象の発現件数に用量依存性は認められず、投与中止に至った有害事象、および重大な有害事象のうちNXT007に関連するものはなかった。また、血栓塞栓事象は認められず、安全性プロファイルは良好だった。
代表取締役社長CEOの奥田修氏は、「NXT007について、血友病A患者の血液凝固能を正常レベルに近づける可能性が初めて臨床試験のデータにおいて示されたことに大きな手応えを感じている。このデータを受け、血友病Aにおけるヘムライブラとの直接比較を含む3つの第3相試験を来年から開始する予定。近年の血友病A治療の著しい進歩を受けて、より一層効果的で使いやすい治療法への期待が高まっている。1日でも早く本剤を必要とする人に届けられるよう、ロシュと連携して開発に注力していく」と述べている。
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