レポートでは、大統領令の背景として、市場経済のもと製薬企業が自由に価格決定できることなどによる米国で承認された医薬品が高薬価となりやすい仕組みに加え、海外の薬価が低すぎるという不満が米国内で強く、創薬にかかるコストを米国民が過重に負担しているとの意識があると説明。
大統領令は、米国の薬価を先進国で最も薬価が低い国の水準まで引き下げる最恵国待遇、研究開発費を米国民に対して不均衡に過重に負担させる政策を取る国にあらゆる措置を取る諸外国による「ただ乗り」への対応、製薬企業から米国の患者への直接販売を主な狙いとしている。
このうち、大統領令を発令した5月12日から30日以内に製薬企業に最恵国待遇薬価の目標を伝え、顕著な進捗が見られなかった場合は規制的措置を取るとしているものの、製薬企業にこれらを強制するには法改正が必要として、「実現可能性は不透明」とした。
最恵国待遇薬価政策が実現した場合の影響は極めて大きいとし、日本への影響の一つとしてドラッグロスの加速を指摘。米国は多くの製品で最恵国待遇薬価として薬価が低い日本を参照する可能性があり、経済的合理性の観点から製薬企業は日本市場で薬価が付与されることを回避する必要に迫られるとし、日本市場に参入しない、あるいは撤退するとした。
特に新薬の中でも、癌やリウマチ等の分野におけるバイオ医薬品でより深刻になるとし、日本では年間約95万人が新規癌患者になっていることを背景に、バイオ医薬品のロス加速は医療提供の核心的問題になると予測した。
その上で、ロス加速を回避するためには薬価引き上げが有効と提言した。最恵国待遇薬価の対象となる新薬のうち、日本が国際的に最も薬価が低い製品について、少なくとも日本の次に薬価が低い国の薬価まで引き上げる必要があるとした。
薬価引き上げについては、通商問題の一環として米国が日本に求めてくる可能性もあるとし、個々の製品での対応だけでなく、市場拡大再算定の是非など、薬価制度そのものの見直しが迫られる可能性もあるとした。
薬価を引き上げる場合、薬剤費の予算に制約があるもとでは、薬剤使用量の抑制が求められるが、日本は薬剤使用量を抑制する余地は大きいとした。