CJDの早期診断を可能にするバイオマーカーが求められている
長崎大学は2月19日、神経変性疾患のバイオマーカーとして注目されている神経フィラメント軽鎖(NF-L)について、日本人のクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)患者では早期診断マーカーや予後予測因子にならないことを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻保健科学分野(神経内科学分野)の佐藤克也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biomolecules」にオンライン掲載されている。

画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
孤発性CJDを含むプリオン病は、異常なプリオンタンパク質が脳に蓄積することで神経細胞が損傷し、急速な認知機能の低下、運動失調、神経症状を引き起こす致死性の神経変性疾患。現在、CJDの診断には、臨床症状、脳波検査、髄液(CSF)中の14-3-3やタウタンパク質などが用いられている。CJDの症状は急速に進行し予後不良である場合が多く、臨床症状も多様であるため、早期診断は適切な治療と患者のQOLのために必須だ。近年では、CSFバイオマーカー検査やRT-QuICアッセイの進歩により高感度な診断が可能になりつつあり、特に血液のような採取が容易な体液で測定できるバイオマーカーの開発が求められている。
欧米で有望視されるCJDマーカー、日本人でも有用か?
CJD患者では、血清およびCSF中のNF-L濃度が上昇することが報告されている。欧米では、CJD患者においてNF-Lと病態進行や生存期間との関連性が示唆されているため、CJDの早期診断におけるバイオマーカー候補として研究されている。一方、日本は欧米と治療方針や生存期間が異なるため、NF-LとCJDの臨床的パラメータとの関連性を検証する必要があった。
そこで研究グループは、神経変性疾患の革新的バイオマーカーとしてのNF-Lに着目し、CJDの診断および予後予測における臨床的有用性の検証を行った。今回の研究では、日本人CJD患者72人の血清および髄液検体を対象として、最新鋭のElla(R)自動免疫測定システムを駆使してNF-L濃度の定量解析を実施。そこから得られたデータについて、確立された診断マーカーである14-3-3タンパク質、総タウタンパク質、およびRT-QuICアッセイとの相関性を多角的に精査した。さらに、疾患の全経過期間、無動性無言状態への移行期間、発症年齢といった重要な臨床指標とNF-L濃度との関連性について、包括的な統計解析も行った。
日本人患者ではNF-Lレベルと生存期間に相関なし
日本のCJD患者において、血清およびCSF中のNF-L濃度と、病気の期間、無動性無言状態までの期間、発症年齢などの臨床パラメータとの間に有意な相関関係は認められなかった。また、病気の進行速度とNF-L濃度との関連性も確認できなかった。血清とCSFのNF-L値の間にはわずかな相関傾向が見られたが、統計的に有意ではなかった。これらの結果から、日本人CJD患者においてはNF-LはCJDの早期診断や予後予測のマーカーにならないことが示唆された。
プリオン病の予後予測に新たな視点、診断精度向上に貢献
今回の研究は、日本のCJD患者におけるNF-Lの臨床的意義を詳細に検討した初めての研究であり、欧米の研究結果との違いを明確にする上で重要な研究だ。同研究によって、NF-Lは他の神経変性疾患でバイオマーカーとして有望視されているものの、CJDにおいては単独での予後予測には限界があることが示唆された。
「本研究成果により、早期診断に有用な新たな知見が得られた。プリオン病(孤発性CJD)の診断精度向上に寄与することで、早期の臨床診断の確定および治療法開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・長崎大学 Research