運動学習記憶の保持や減衰に関する詳細なメカニズムは十分に解明されていなかった
東京都健康長寿医療センター研究所は1月29日、運動学習記憶が成立した後、その保持や減衰の経過を定量的に解析する実験系を確立したと発表した。この研究は、同研究所老化脳神経研究チームの柿澤昌研究部長によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。

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運動学習記憶は日常生活の動作や危機回避行動を支える重要な能力だ。しかし、運動学習記憶の保持や減衰に関する詳細なメカニズムは十分に解明されていない。
そこで今回、運動学習記憶の保持や減衰の時間経過を解明し、これらに影響を与える要因やその作用機構を調べる解析系の確立を目指した。さらに、学習記憶の保持・減衰に影響を与える因子を調べる一環として、加齢の影響について調べた。
加齢マウス、運動学習は成立するも学習が向上する速度は若いマウスと比べ低下
運動学習記憶の保持・減衰の解析のため、回転棒試験(回転棒上にマウスを乗せ、落下するまでの時間を計測)を用いた。約3か月齢の若いマウスでは、1セット10回のテストで運動学習が成立した1日後に2セット目のテストを行うと、運動学習記憶がほぼ100%保持されていた。しかし、7日後、14日後と運動学習記憶が徐々に減衰することが示された。約11か月齢の加齢マウスでも、1セット目のテストで運動学習は成立したが、学習が向上する速度は若いマウスと比べて低下していた。
加齢で新規学習速度は低下するが、過去の学習記憶は比較的良好に保持される
一方、その後の学習記憶の保持では、若いマウスとの間に統計的に有意差は見られなかった。これらの結果は、加齢により新しい学習の速度は低下する一方、過去に習得した学習記憶は比較的良好に保持されることを示している。
老化メカニズム解明のみならず、認知症予防や高齢者の学習支援策開発への貢献に期待
この新しい解析系により、運動記憶保持や減衰の定量的な解析を通じて、学習記憶の保持や減衰に影響を与える因子の探索が可能になった。また、同システムを用いて、加齢により過去に習得した学習記憶を保持する能力が低下するよりも先に、新しい学習を行う速度が低下することが示された。同結果は「歳を取ると新しいことが覚えにくくなるが、昔のことはよく覚えている」という日常的な経験を科学的に裏付けるものとなる可能性がある。
「本成果は、脳の老化や記憶メカニズムに対する理解を深めると同時に、認知症の予防や高齢者の学習支援策の開発を通じて、高齢社会における健康長寿への貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース