アレルギー症状の重症度と関連する粘膜型マスト細胞の数、顕著な増加の仕組みは不明
順天堂大学は1月28日、食物アレルギー症状の悪化に関わる新規のメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの中野信浩准教授、北浦次郎教授、奥村康センター長、医学部小児科学講座の大石賢司助手、大学院医学研究科小児思春期発達・病態学の清水俊明特任教授、東京理科大学先進工学部の西山千春教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載されている。

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食物アレルギーとは、特定の食物に対して過剰な免疫応答が起こり、体にとって不利益な症状が誘発されてしまう疾患。主な症状として蕁麻疹やかゆみ、腹痛などがあるが、より重症な症例ではアナフィラキシーと呼ばれる症状により呼吸困難や血圧低下、意識の消失などにより生命を脅かす危険な状態になることもある。
典型的な食物アレルギーでは、特定の食物を認識して結合するIgE抗体と、それらのIgE抗体を細胞表面に結合させているマスト細胞の働きによってアレルギー症状が誘発される。そのため、食物アレルギー症状の重症度は、各個人のIgEの量とマスト細胞の数によってある程度規定される。食物アレルギーを発症したマウスの腸管では粘膜型マスト細胞数の顕著な増加が見られ、アレルギー症状の重症度はこのマスト細胞数と相関することが知られている。しかしながら、粘膜型マスト細胞の顕著な増加が引き起こされる仕組みはよくわかっていなかった。
MHCクラスII欠損マスト細胞をもつマウス、腸管マスト細胞増加せずアレルギー症状軽減
今回の研究では、IgEとマスト細胞が関与する食物アレルギー(IgE依存性食物アレルギー)のマウスモデルを用いた解析と、細胞を使った詳細な解析により、食物アレルギーにおいて腸管の粘膜型マスト細胞の過剰な増殖が引き起こされる仕組みを明らかにした。
研究グループは、IgE依存性食物アレルギーを発症したマウスの腸管粘膜に、MHCクラスII分子を発現する抗原提示細胞様の特徴をもった粘膜型マスト細胞が存在することを発見した。そこで、このマスト細胞が食物アレルギーの病態の進行にどのように関わっているのかを明らかにするため、マスト細胞欠損マウスに野生型マスト細胞またはMHCクラスIIを欠損するマスト細胞を移入し、これらのマウスを用いて食物アレルギーマウスモデルを作製する実験を行った。その結果、野生型マスト細胞をもつマウスでは食物アレルギーの発症に伴い腸管マスト細胞数の顕著な増加が観察されたのに対し、MHCクラスII欠損マスト細胞をもつマウスではその増加が見られずアレルギー症状が軽減されることがわかった。
粘膜型マスト細胞の抗原提示でT細胞活性化、IL-9産生亢進しマスト細胞の過剰増殖を誘導
次に、MHCクラスII欠損マスト細胞をもつマウスで腸管マスト細胞数の顕著な増加が見られない理由を探るため、細胞を用いて詳細な解析を行った。MHCクラスIIを発現する野生型の粘膜型マスト細胞は、食物アレルギーを発症したマウスから採取されたヘルパーT細胞を抗原提示により活性化させ、活性化されたヘルパーT細胞はインターロイキン(IL)-4とIL-5を産生した。一方、MHCクラスIIを欠損する粘膜型マスト細胞ではこのT細胞の活性化が見られなかった。粘膜型マスト細胞は、食物アレルギー発症時に腸管上皮細胞から放出されるIL-33の刺激によってマスト細胞増殖因子IL-9を産生することが知られている。活性化T細胞によって産生されたIL-4とIL-5は、粘膜型マスト細胞によるIL-9産生を著しく亢進させ、マスト細胞自身の増殖を増強させることがわかった。
これらの結果から、粘膜型マスト細胞は食物抗原を取り込んでヘルパーT細胞に提示、抗原特異的なヘルパーT細胞が活性化されIL-4とIL-5を産生、これらのサイトカインが粘膜型マスト細胞によるIL-9産生を著しく増強することで過剰なマスト細胞増殖が誘導されるという一連の仕組みが明らかになった。
粘膜型マスト細胞が関与する炎症性腸疾患などの治療にもつながる可能性
今回の研究から、IL-9が粘膜型マスト細胞を特に強力に増殖させる作用をもつことも明らかになった。IL-9またはIL-9受容体を標的とすることで、食物アレルギーだけでなく粘膜型マスト細胞が関与する炎症性腸疾患などの治療も可能になるかもしれない。「今後はそれらの可能性を検証する研究を行っていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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