医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > トリプルネガティブ乳がん、新規治療標的分子ZCCHC24を同定-科学大ほか

トリプルネガティブ乳がん、新規治療標的分子ZCCHC24を同定-科学大ほか

読了時間:約 3分20秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年11月05日 AM09:00

TNBCにおける乳がん幹細胞性の詳細な分子制御機構は不明だった

東京科学大学は11月1日、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)のがん幹細胞性がRNA結合タンパク質ZCCHC24の転写後調節機構により制御されることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の淺原弘嗣教授、内田雄太郎博士研究員・臨床研修医ら、金沢大学がん進展制御研究所の後藤典子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO Reports」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

乳がんは、日本で年間9万人以上が罹患する、女性で最も頻度が高いがん種である。中でもTNBCは乳がん全体の約20%を占め、他のサブタイプと異なり十分な治療法が確立されていないため、予後不良の疾患として知られている。TNBCにおいてはCD44陽性CD24陰性などの細胞膜上のマーカーで特徴づけられ、化学療法に対する治療抵抗性や乳がんの再発、腫瘍形成能に寄与する細胞集団は乳がん幹細胞と呼ばれ、転写制御や転写後制御等による遺伝子発現制御機構により、その幹細胞性が獲得されると考えられてきた。その詳細な分子機構は、これまで明らかではなかった。

転写後制御をつかさどる代表的なタンパク質としてRNA結合タンパク質が知られている。RNA結合タンパク質は標的遺伝子のmRNA上の配列cis-elementに直接結合することで、翻訳の亢進・減衰、mRNAの安定化・分解を介して発現制御を行うことで、標的遺伝子の安定的な発現・細胞の恒常性維持に対して非常に重要な役割を果たす。これまで、乳がん以外のいくつかのがん種ではRNA結合タンパク質によるがん細胞の制御機構は知られていた。しかし、TNBCにおけるRNA結合タンパク質を介したがん幹細胞性の制御機構は不明だった。

RNA結合タンパク質ZCCHC24を同定、特定配列認識・結合で乳がん幹細胞性を制御

今回研究グループはTNBC患者由来検体に対してシングルセルRNAシークエンス解析を行い、乳がん幹細胞を含む間葉系細胞集団に特異的に発現する遺伝子を探索し、RNA結合タンパク質ZCCHC24を同定した。これまで報告がほとんどされてこなかったZCCHC24分子の特性や遺伝子発現制御機構を解析するため、RNAシークエンスを用いた遺伝子発現解析、BRICシークエンスによる網羅的なmRNAの安定性解析、およびPAR-CLIP法を用いたZCCHC24の結合標的の網羅的解析を行った。その結果として、ZCCHC24がZEB1、NOTCH2、NRP1、CD44といった乳がん幹細胞性獲得のために重要な遺伝子群のmRNA非翻訳領域に特異的に存在する塩基配列”UGUWHWWA”というcis-elementを認識して結合することで、これらの遺伝子の発現を上昇させて乳がん幹細胞性を獲得することが明らかになった。

転写因子ZEB1とZCCHC24の間で転写調節と転写後調節によるポジティブフィードバック形成

さらにZCCHC24の発現を制御する上流転写因子の同定を、TNBC細胞に対するHi-CやChIPシークエンスによりデータ解析を行った。その結果、ZCCHC24の標的因子であり乳がん幹細胞性を制御することが報告されている転写因子ZEB1がZCCHC24の発現を転写活性化で上昇させることが明らかとなり、転写因子ZEB1とRNA結合タンパク質ZCCHC24との間で転写調節と転写後調節によるポジティブフィードバックの形成が確認された。

次に、ZCCHC24の腫瘍形成における機能解析を進め、ZCCHC24の発現を減少させたTNBC患者由来検体においてはin vivoレベルで腫瘍形成能が減弱することを確認した。さらに、形成された腫瘍に対するシングルセルRNAシーケンス解析を用い、ZCCHC24の発現減少により乳がん幹細胞を含む間葉系細胞集団が大きく減少していることを明らかにした。

TNBCマウスにZCCHC24へのsiRNA製剤+BET阻害剤投与で腫瘍成長が相加的に抑制

最後に、TNBC患者由来検体を皮下移植したマウスにZCCHC24に対するsiRNA製剤と、TNBCに対する使用が有望視される化合物であるBET阻害剤JQ1を併用投与した。その結果、腫瘍の成長が相加的に抑制されることを明らかにした。

これらの結果から、ZCCHC24によるmRNAの安定化を介した転写後調節制御とZEB1による転写調節制御が、互いにポジティブフィードバックを形成することでTNBCのがん幹細胞性が維持されることを明らかにした。

TNBC腫瘍形成能や治療抵抗性獲得の新規分子メカニズム解明、治療への寄与に期待

今回研究グループはRNA結合タンパク質ZCCHC24による乳がん幹細胞性に重要な遺伝子の非翻訳領域上の”UGUWHWWA”というcis-elementを介した転写後調節機構と、転写因子ZEB1による転写調節がポジティブフィードバックを形成することでTNBCの腫瘍形成能や化学療法に対する治療抵抗性を獲得するという新規分子メカニズムを明らかにした。同研究成果は、乳がん幹細胞制御におけるRNA階層を介したメカニズムの重要性を明らかにするとともに、難治性がんであるTNBCに対する新規治療標的としてZCCHC24が有望な分子であることを示し、今後の乳がん治療への寄与が期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 末梢性T細胞リンパ腫の新規治療標的を発見、BV抵抗性克服する可能性示唆-北大ほか
  • ラジオ体操の実践は、フレイル高齢者のバランスや持久力向上に寄与-都長寿研ほか
  • がん抑制遺伝子ARMC5に、飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸を増やす機能を発見-阪大
  • 中強度の運動が長期記憶を強化、8週間後も効果持続-北教大ほか
  • ホルモン抵抗性がん、P53の機能回復を促す新規治療戦略を発見-都長寿研ほか