妊娠女性のパートナーの労働時間と精神的苦痛との関連は不明だった
富山大学は7月28日、妊娠女性のパートナー男性における長時間労働が、精神的苦痛と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大エコチル調査富山ユニットセンター 稲寺秀邦(富山大学名誉教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。

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妊娠女性のパートナーは働き盛りの男性が多く、子どもを授かることは喜ばしい一方、新しい家族が増え、父親になることが精神的な負担となる可能性がある。先行研究では、パートナーが妊娠している男性は、一般の男性に比べて2倍程度抑うつが多いという報告がある。
長時間労働がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことは広く知られている。日本はOECD諸国の中でも労働時間が長い傾向にあるが、妊娠女性のパートナーの労働時間と精神的苦痛との関連を大規模な集団で解析した研究はこれまでなかった。
妊娠女性のパートナー男性4万4,996人を対象に、労働時間と精神的苦痛との関連を検討
そこで、研究グループは今回、エコチル調査に参加している妊娠女性のパートナー男性4万4,996人を対象に、労働時間と精神的苦痛との関連について検討した。
妊娠女性のパートナーの1週間の労働時間は、「平均して週に何日働きますか」「1日の平均労働時間は何時間ですか?残業時間も含めてお答え下さい」という質問への回答を掛け合わせて算出。精神的苦痛の評価には、ケスラー心理的苦痛スケール(K6)を用いて算出した。K6は6項目の質問から成り、合計点数が高いほど「精神的な問題がより重い可能性」があるとされている。合計点数が5~12点を「軽度の精神的苦痛あり」、13点以上を「重度の精神的苦痛あり」と判定した。
妊娠女性のパートナーの1週間の労働時間は40時間以内が21.6%、40~45時間以内が13.3%、45~50時間以内が24.1%、50~55時間以内が9.6%、55~65時間以内が16.2%、65時間以上が15.2%だった。
1週間の労働時間が55時間超で軽度、65時間超で重度の「精神的苦痛」を感じる
年齢、BMI、婚姻状況、教育歴、年収、喫煙歴、飲酒歴、病歴、自閉症傾向、職種で調整した最終モデルにおいて、1週間の労働時間が40時間以下の者を基準とすると、軽度の精神的苦痛を感じるリスクは、1週間の労働時間が55~65時間以内の者で1.12倍、65時間を超える者で1.34倍だった。一方、重度の精神的苦痛を感じるリスクは、1週間の労働時間が40時間以内の者と比べ、65時間を超える者は1.84倍だった。傾向検定では1週間の労働時間の長さと、軽度・重度の精神的苦痛との間には正の関連が認められた。
以上の結果より、妊娠女性のパートナーは、1週間の労働時間が55時間を超えると軽度の精神的苦痛を、65時間を超えると重度の精神的苦痛を感じることが示唆された。
父親の適切な労働時間の維持が、自身の健康のみならず家族の幸福度とも関連する可能性
エコチル調査富山ユニットセンターでは、これまで妊娠女性のパートナー(父親)の労働時間が長いことは父親の育児に関わる時間が短くなること、妊娠女性のパートナーの育児に関わる時間が短いことは、母親の精神的苦痛と関連することを報告している。これらの知見から、父親の労働時間を適切に維持することは父親自身の健康だけでなく、母親や家族全体の幸福度と関連する可能性がある。
労働時間の適切な管理とともに、父親を支えるサポート体制を構築することが必要
今回の研究は、日本人の大規模集団(約4.5万人規模)における解析結果であること、特定の職業に従事する者だけでなく多くの職種に従事する全国15地域の妊娠女性のパートナーを対象としていることから、信頼性の高い結果だと言える。また、データの収集期間は2011年1月~2014年3月であるため、「働き方改革」以前の労働時間を反映している。そのため、1週間の労働時間が55時間を超える者が31.4%、65時間を超える者が15.2%と、幅広い労働時間の者を対象として解析した結果であることは同研究の強みといえる。
一方、同研究は横断的な調査であるため、労働時間と精神的苦痛との因果関係は明らかではない。もともと精神的苦痛を抱えている者は労働生産性が低く、同じ仕事をこなすために、より多くの時間を必要とする可能性がある。また、精神的苦痛と関連する要因として知られている仕事の内容や質、仕事のコントロール度、仕事以外のストレス、本人の性格等についての情報は得られていない。さらに、労働時間は客観的に測定したものではなく自記式質問票によるものであることから、正確ではない可能性がある。
「本研究より、妊娠女性のパートナーにおいて、労働時間が長いことは精神的苦痛と関連する可能性が示唆された。妊娠女性のパートナーは、父親になることや家族が増えることが精神的な負担となる可能性もあることから、職場において労働時間を適切に管理するとともに、父親を支えるサポート体制を構築する必要性があると考えられる」と、研究グループは述べている。
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