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AI搭載の「胎児心臓超音波スクリーニング支援システム」開発、国内承認-理研ほか

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2024年09月17日 AM09:00

超音波検査の課題解決に向けた超音波診断支援AIの臨床応用が期待されていた

(理研)は9月6日、超音波検査で胎児の心臓に異常がないかスクリーニングする際に、検査者の超音波診断を支援する人工知能()システムを共同開発し、AI搭載医療機器プログラムとして厚生労働省の薬事承認を取得したと発表した。この研究は、理研革新知能統合研究センター 目的指向基盤技術研究グループ がん探索医療研究チームの小松正明副チームリーダー、国立がん研究センター研究所 医療AI研究開発分野の浜本隆二分野長(理研 革新知能統合研究センター 目的指向基盤技術研究グループ がん探索医療研究チーム チームリーダー)、昭和大学 医学部 産婦人科学講座の松岡隆准教授らの共同研究グループによるもの。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

超音波検査は簡便性・非侵襲性に優れており、幅広い医学領域で使用されている。一方で、超音波プローブを手動走査して画像を取得するため、検査者間で診断技術の差が生じやすく、また超音波画像に映り込む音響陰影によって画質が落ちてしまうなど、特有の課題がある。そのため、これらの課題解決に向けた超音波診断支援AIの臨床応用が期待されている。

高度な診断技術が必要な胎児心臓超音波スクリーニング支援システムのAIを開発

胎児心臓超音波スクリーニング検査は全ての胎児を対象としているが、胎児心臓は小さく複雑な構造で拍動もあるため、高度な診断技術が必要となる。実際には検査者間の技術格差が大きいため、先天性心疾患の出生前診断率はいまだ十分ではなく、地域差も生じている。そのため研究グループは、胎児心臓超音波スクリーニング支援システムの社会実装に向けて、これまでAI基盤技術の研究開発に取り組んできた。

今回、共同研究グループが開発したAIシステムでは、胎児心臓超音波スクリーニング動画において確認すべき心臓血管構造の18部位を対象として物体検知技術を適用し、正常構造として検出された部位を色付き枠で提示した。次に、その部位検出情報を2次元データに変換し、縦軸に対象部位、横軸に検査時間経過を示し、各部位の検出結果を時系列で一覧表示するバーコードを生成した。さらに、検査者が把握しやすいように心臓部および流出路を対象とした部位検出結果を検出率グラフで提示した。正常胎児では、超音波プローブのスイープ走査に合致して、各診断部位を順番に検出できる。一方で、正常胎児が示すバーコードや検出率グラフから逸脱していた症例については、異常を疑う所見ありとして検査者に注意喚起を行う(異常検知)。

AIシステムと非熟練医/熟練医の読影比較で胎児心臓超音波診断精度向上を検証

研究では、胎児心臓超音波スクリーニング動画(妊娠18~36週、正常262例、異常38例)を用いた。まず、AIシステムの部位検出の精度を担保する単体性能試験を実施し、胎児心臓超音波スクリーニング動画において上記18部位を対象とした正常部位検出の精度を評価した。次に行った医師読影試験には、全国より非熟練医(産婦人科専門医、研修医)44人、熟練医(胎児心エコー認証医)6人が参加。正常例・異常例をランダムに配置した60動画に対して検査者単独およびAIシステム併用にて読影し、その正常異常判定精度を比較した。

主要評価項目として、1)正常動画から抽出した静止画に含まれる部位数を分母として、AIシステムで正常部位と正しく検出された部位数を分子とする割合(感度)、および 2)正常動画から抽出した静止画に含まれていない部位数(正常動画に含まれる全部位数から、ある一時点の静止画に写っている部位数を引いた数)を分母として、AIシステムで正常部位と検出されていない部位数を分子とする割合(特異度)、さらに 3)AIシステムの部位検出結果の提示を受けた非熟練医の正常異常判定に対する感度を設定した。また、副次評価項目として 3)に対する特異度を設定した。主要評価項目 1)から 2)、3)の順に、各々の有意水準片側5%の検定を行い、各検定が統計学的に有意だった場合に限り、引き続く仮説の検定を行った(固定順序法)。

開発のAIシステムの併用が非熟練医の正常異常判定精度を有意に向上させることを実証

その結果、1)正常部位検出に対する感度は93.5%であり、事前設定した感度の閾値80%に対する優越性を示した(p< 0.001)。次に、2)特異度は95.9%であり、特異度の閾値80%に対する優越性を示した(p <0.001)。さらに、3)AIシステム併用による非熟練医の正常異常判定に対する感度は78.4%であり、検査者単独での感度73.6%に対する優越性を示した(p= 0.005)。つまり、3つの主要評価項目の仮説は、統計学的な多重性を考慮した上で全て検証された。また、3)に対する特異度は86.5%であり、検査者単独での特異度79.1%に対する優越性を示した(p< 0.001)。よって、AIシステムは十分な正常部位検出性能を示し、その併用により非熟練医の正常異常判定精度を有意に向上させることがわかった。

薬事承認を取得した胎児心臓超音波スクリーニング支援システムは、クラウド環境で提供される。超音波画像診断装置からからキャプチャーボックスを経由してビデオ信号で映像を取得し、クラウドサーバ上で解析後、解析結果を汎用コンピュータ画面に表示する。解析結果はクラウドサーバ上に保存することも可能。なお、AIシステムの主な機能は検査者の超音波診断への補助であるため、AIシステムが提供する情報のみで診断せず、最終的な診断は専門知識を有する医師が行うとしている。

技術格差・地域間の医療格差を埋めることで、産婦人科医療の発展への貢献を目指す

今回、世界に先駆けて胎児心臓超音波スクリーニング支援システムが開発され、AI搭載医療機器プログラムとして薬事承認された。これまで超音波診断支援AIの研究開発は、画像精度管理の難しさもあり日本だけでなく欧米でも他の医療用画像診断機器と比較して進んでいなかった。今後も課題を一つずつ克服して基盤技術を積み重ねていくことで、幅広い医学領域を対象とした超音波診断支援AIの実臨床応用が進むことが期待される。日本の切迫した少子化および産婦人科医療体制をふまえて、今後は超音波診断支援AIをはじめ、AIやICTを活用した診療ワークフローの効率化、遠隔診療や地域医療連携などの積極的な導入が求められる。

「本研究成果は、胎児の超音波診断を支援するとともに、早急に治療が必要な重症かつ複雑な先天性心疾患の見落としを防ぎ、早期診断や綿密な治療計画の立案につながると期待できる。また、検査者間の技術格差や地域間の医療格差を埋めることで、産婦人科医療のさらなる発展に貢献するものと考えられる。臨床現場でAIシステムの実証実験を実施し、医療従事者や患者からのフィードバックを得ながら、より臨床現場に則したAIシステムの運用を目指す」と、研究グループは述べている。

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