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受動喫煙による肺がん、誘発された変異が悪性化促すメカニズムを解明-国がんほか

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2024年04月22日 AM09:20

受動喫煙はどのような遺伝子変異を誘発し発がんに寄与するのか

国立がん研究センターは4月16日、受動喫煙の経験を持つ女性に発生した肺がん()の遺伝子変異を調べ、受動喫煙は能動喫煙とは異なるタイプの変異を誘発し、その変異は初期の腫瘍細胞の悪性化を促すことで発がんに寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長、白石航也ユニット長、東京医科歯科大学呼吸器内科の宮崎泰成教授、望月晶史大学院生、本多隆行学内講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Thoracic Oncology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肺がんはがん死因の一位であり、日本では年間に約7万6,000人、全世界では約180万人の死をもたらす難治がんである。自分でたばこを吸う「能動喫煙」に加えて、たばこを吸う本人以外が周囲に流れるたばこの煙を吸う「」は、肺がんの原因となる危険因子である。国際がん研究機関(IARC)は受動喫煙を最も危険レベルが高いグループ1「ヒトに対して発がん性がある」として分類し、また、日本人を対象とした科学的根拠に基づく肺がんのリスク評価でも肺がんとの関連は「確実」とされている。そのため、日本では改正健康増進法にのっとり、学校、病院、児童福祉施設、行政機関などでの原則敷地内禁煙など受動喫煙の防止策がとられている。しかしその一方で、受動喫煙がどのような遺伝子変異を誘発するのかなど、発がんのメカニズムは明らかになっていなかった。

日本人非喫煙者女性における肺腺がん、受動喫煙歴と遺伝子変異の関係を調査

研究グループは、女性の肺がんの多くを占める肺腺がんについて、日本人の非喫煙者女性に生じた肺がんの遺伝子変異と受動喫煙歴の関係を調べることにより、肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明するととともに、受動喫煙が肺がんの発生を促すメカニズムを推定した。

同センター中央病院で手術を受けた非喫煙者女性291人、能動喫煙者女性122人の肺腺がんについて、ゲノム全体にわたる変異を同定した。これらの患者は、同センターバイオバンク参加時のアンケートにより能動喫煙歴、10歳代および30歳代の受動喫煙歴に回答していた。そこで、この情報を用い、患者の受動喫煙、能動喫煙歴と遺伝子変異の関係を調べることにより、受動・能動喫煙による遺伝子変異の誘発や特徴を調べた。

能動喫煙者の肺がんで見られる変異、受動喫煙者の肺がんではごくまれであると判明

10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で受動喫煙を受けていた(月に1~2日から毎日まで)人に生じた肺がんでは、受動喫煙を受けていない人の肺がんと比べて、より多くの遺伝子変異が蓄積していた。また、能動喫煙者の肺がんで見られるたばこ中の発がん物質により直接引き起こされるタイプの変異は、受動喫煙者の肺がんではごくまれにしか見られなかった。よって、受動喫煙は能動喫煙とは違うメカニズムで変異を誘発することが明らかになった。

受動喫煙で高発現したAPOBEC群誘発の変異、腫瘍細胞の不均一性増加で悪性化促進

受動喫煙は、ドライバー変異と呼ばれる肺がんの発生初期に生じるがん遺伝子の変異の頻度には影響していなかった。そこで、全ゲノム・全RNAシークエンスの手法を用い、10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で毎日受動喫煙を受けていた人の肺腺がんについて、より詳しく調べた。その結果、受動喫煙者の肺がんでは変異誘発活性を持つAPOBEC3B遺伝子の発現が高まっており、APOBECタンパク質群により生じたと考えられるタイプの変異が増加していることがわかった。また、受動喫煙により誘発された変異の多くは、がん組織内のすべてのがん細胞のDNAに一様には存在していないことから、腫瘍細胞の発生そのものではなく、その後に不均一性(多様性)を増加させることで初期の腫瘍細胞の悪性化を促進していると推察された。

今回の研究で、受動喫煙が能動喫煙とは異なる遺伝子変異を誘発することが明らかになった。これまでに受動喫煙は肺の中で炎症を引き起こすこと、そして炎症はAPOBEC3B遺伝子の発現を誘導することが知られていた。今回の研究結果と合わせると、受動喫煙は肺の中での炎症を誘発し、その結果APOBEC3BなどのAPOBECタンパク質が活性化されることで、変異が誘発され、不均一性を獲得することで、腫瘍細胞が悪性化していくというメカニズムが考えられる。不均一性の強いがんやAPOBEC3B遺伝子の発現の高いがんは、抗がん薬が早い段階で効かなくなってしまうなど、患者の予後を悪くすることが知られている。今回の研究の結果は、受動喫煙を回避することによる肺がんの予防の重要性を支持している。

受動喫煙に対する新たな肺がん予防法の開発などにつながると期待

今回の研究において、受動喫煙によって変異が誘発されるメカニズムが明らかになったことで、炎症を抑えるなど、受動喫煙に対する新たな肺がん予防法が今後開発されていくことが期待される。受動喫煙と肺がんとの関連はこれまで科学的に確立されていたが、この研究によりその科学的根拠がさらに強固になったと言える。「日本では改正健康増進法の下でも経過措置の形で屋内全面禁煙が十分に普及していない。受動喫煙による健康被害を防ぐために、国際的に標準となっている屋内全面禁煙の法制化が望まれる」と、研究グループは述べている。

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