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高齢者の介護費用、近所に生鮮食料品店があると月1,000円以上低い-千葉大

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2024年04月16日 AM09:20

「望ましい地域環境」で、居住する高齢者の介護費用は抑えられる?

千葉大学は4月12日、8種類の地域環境と介護費用との関連について、国内7市町の3万4,982人の高齢者を2010年から約9年間追跡したデータを分析した結果を発表した。この研究は、同大予防医学研究センターの陳昱儒特任研究員、花里真道准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Health & Place」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

高齢化の進展により要支援・要介護認定者数は増加し、2021年度から「介護費11兆円時代」に突入した。健康長寿社会の実現と社会保障の持続可能性の確保に向けて、国や自治体、個人が負担する介護費用の適正化が求められている。地域の環境が高齢者の健康に影響を及ぼす先行研究として、都市部において緑が多い地域に居住する高齢者にはうつが少ない、生鮮食料品店の多い地域では、野菜・果物などの摂取頻度が高く、要介護認定が少ないなど、さまざまな知見が蓄積されてきている。しかし、こうした望ましい地域環境に居住する高齢者でその後の介護費用が抑えられるか、という課題は未検討だった。

7市町3万4,982人の高齢者を9年追跡、8種の地域環境と介護費用との関連を検討

そこで今回の研究では、地域の環境と約9年間の介護費用との関連を検証した。研究には日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)のデータを用いた。対象者は、2010~2019年の介護レセプトデータを結合可能な7市町(岩沼市、柏市、中央市、名古屋市、碧南市、常滑市、武豊町)に居住し、2010年に日常生活動作が自立していた高齢者3万4,982人(男性1万6,650人、女性1万8,332人、平均年齢73.5歳)とした。分析は、8種類の地域環境が自宅周辺(1キロメートル以内)にあると回答した者とないと回答した者について、その後約9年間の追跡期間中の累積介護総費用(円/人月)を比較した。8種類の地域環境は、先行研究に基づき、1)運動や散歩に適した公園や歩道、2)魅力的な景色や建物、3)新鮮な野菜や果物が手に入る商店・施設、4)気軽に立ち寄ることができる家や施設5)坂や段差など、歩くのが大変なところ、6)交通事故の危険が多い道路や交差点、7)夜の一人歩きが危ない場所、8)落書きやゴミの放置が目立つところとし、「たくさんある、ある程度ある、あまりない、まったくない、わからない」の5つの選択肢の回答を得た。「たくさんある、ある程度ある」を「あり」、「あまりない、まったくない」を「なし」、「わからない」を欠損値として多重代入法で「あり」か「なし」に分類した。

研究開始時の2010年時点の性別、年齢、等価所得、教育歴、婚姻状況、同居の有無、居住年数、うつ、主観的健康状態、高次生活機能(電車やバスでの外出、自分で食事が用意できるなど13項目)、受診状況、車使用の有無、外出頻度、歩行時間、人口密度、日照時間、降雪量の影響を統計学的に考慮した。

「生鮮食料品店が近くにある」、介護費用が月1,367円低い

研究の結果、追跡期間中に21.6%の高齢者が介護保険サービスを利用した。8種類の地域環境のうち、3種類の地域環境で介護費用との統計学的に有意な関連が見られた。生鮮食料品店が近くにあると回答した者は、近くにないと回答した者と比べて介護費用が一人当たり月1,367円低い結果だった。

先行研究により、生鮮食料品店へアクセスしやすい高齢者は、野菜や果物、肉や魚などの摂取頻度が多いことが示されている。また、生鮮食料品店に近いと認知症リスクも、要介護認定リスクも低いと報告されている。このように生鮮食料品店の健康への良い影響が重なり、介護費用の低さにつながった可能性がある。

「立ち寄りやすい施設がある」の回答者は、介護費用が月739円高い

一方で、研究グループの予想と反し、夜歩くのが危ない場所があると回答した者では、ないと回答した者と比べて介護費用が月1,383円低く、立ち寄りやすい施設があると回答した者は、ないと回答した者と比べて介護費用が月739円高い結果だった。

一方、想定していた仮説とは逆に、夜歩くのが危ない場所が多いと回答した高齢者は介護費用が低いという結果だったという。同調査の夜歩くのが危ない場所が多い地域には、駅周辺の地域が多く含まれていた。公共交通の利用しやすさなど、生活の利便性の高さが介護費用の低さにつながった可能性があるとしている。気軽に立ち寄れる家や施設があることは健康へ望ましい影響を持ち、介護費用の低さにつながるという仮説があったが、逆にこうした地域は介護費用の高さに関連していた。立ち寄れる家や施設は、健康に望ましい面と望ましくない面の両面を有する。先行研究によると立ち寄れる家や施設はフレイルを抑制できるという望ましい面を持つ一方で、飲食店に近いところに居住する高齢者は肥満と関連するという望ましくない面を報告する先行研究もある。同研究結果は、こうした望ましくない面の影響が大きかった可能性を指摘している。

生鮮食料品店のある環境、「就労が介護費用低減に与える影響」の6割程度のインパクト

同研究の結果に基づくと、生鮮食料品店が近くにある者は、介護費用が一人当たり月1,367円低いと、高齢者1万人が生鮮食料品店の近くに住むことで介護費用が年間約1.6億円抑制できる計算になる。また、同研究で生鮮食料品店が近くにないと回答した8,740人の近くに生鮮食料品店ができたとすると、月に約1200万円、1人当たり約5.6%の介護費用を低減できる計算になる。

影響の程度を先行研究と比較するために、6年間の追跡データを分析したところ、生鮮食料品店が近くにある者はない者に比べて、期間中の累積介護費用が一人当たり約3万4,000円低い計算になった。先行研究では、就労者は非就労者に比べて、6年間の累積介護費用が一人当たり約6万円低いことが報告されている。生鮮食料品店のある環境は、就労が介護費用の低減に与える影響には及ばないが、その6割程度のインパクトを有していることが明らかになった。

地域特性の詳細分析で介護費用への影響要因解明へ

同研究では、社会疫学と都市計画・デザインの観点から、地域の環境が介護費用に影響を与えることを示唆する知見を得た。これらは、健康日本21(第三次)における「自然に健康になれる環境づくり」の可能性を示している。引き続き、地域の特性を詳細に分析し介護費用に影響を与える要因の解明を進め、健やかな社会づくりに寄与する知見の発信を進めていく、と研究グループは述べている。

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