医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 神経障害性疼痛に神経系組織マクロファージ産生のPAFが関わると判明-NCGM

神経障害性疼痛に神経系組織マクロファージ産生のPAFが関わると判明-NCGM

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年04月05日 AM09:20

炎症性メディエーターPAFの合成酵素欠損マウスで難治性疼痛が軽減、その詳細は?

国立国際医療研究センター研究所()は4月2日、マウスモデルを用いて、難治性疼痛のひとつである神経障害性疼痛にマクロファージやミクログリアが産生するリン脂質型の炎症性メディエーターPAF(Platelet-Activating Factor)が関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、NCGM脂質生命科学研究部の山本将大氏(学振特別研究員PD)、進藤英雄氏(テニュアトラック部長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。

がん、糖尿病、ウイルス感染や外傷によって神経系組織が損傷を受けると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や麻薬性鎮痛薬モルヒネなどの既存の鎮痛薬で奏功しない難治性の慢性疼痛である神経障害性疼痛の発症につながる。世界人口の7~10%に影響するとも言われるアンメットニーズの高い疾患で、革新的な創薬標的の発見が望まれている。研究グループは以前に、PAFの産生酵素LPLAT9(別名:LPCAT2)の欠損マウスでは、(PNI:peripheral nerve injury)によって生じる難治性疼痛が軽減することを見出した。しかし、神経損傷によってPAFが増加するのか?神経系組織を構成するどの細胞種が産生するのか?など、不明な点が複数あった。

末梢神経損傷後にPAF量が一過性に増加、7日後のみ受容体拮抗で鎮痛効果

今回の研究では、PNI後の複数のタイムポイントにて、一次求心性神経の細胞体集合組織である後根神経節と一次求心性神経の投射先である脊髄をそれぞれ採取し、PAF量の変動について分析を行った。その結果、後根神経節および脊髄ともに、PNI3日後と7日後に一過性にPAF量が増加することを見出した。PNIによる疼痛症状は2週間以上持続するが、PNI後14日目にはPAF量は正常レベルまで落ち着いていることがわかった。そこで、PAF受容体の拮抗薬をPNI7日後と14日後に単回投与してみたところ、PAF量の増加が認められた7日後においてのみ鎮痛効果が得られた。つまり、神経障害性疼痛にPAFシグナルが関わるが、疼痛症状に必要なのは比較的早期の一定期間のみであることが示された。

PAFがPAF受容体に作用して脊髄中のPAF量が維持される

次に、PAF生合成酵素であるLPLAT9欠損マウスやPAF受容体の欠損マウスを用いた解析を行った。両マウスではPNI後の疼痛症状が軽減し、LPLAT9欠損マウスの後根神経節や脊髄においてPAFは検出されなかった。PAF受容体欠損マウスの後根神経節中のPAF量は野生型マウスと差はなかったが、興味深いことに、同マウスの脊髄中PAF量は野生型マウスと比べて有意に減少していた。研究グループは過去に培養細胞を用いた検討によって、PAFがPAF受容体を介して新しいPAF産生を促すポジティブフィードバック機構があることを報告している。今回の結果によって、PAFがPAF受容体に作用することで脊髄中のPAF量が維持されていることがマウス個体レベルで示されたことになる。

PAF産生細胞は、神経系組織マクロファージ/ミクログリアだった

後根神経節は神経細胞、、サテライトグリア、シュワン細胞が主な構成細胞。PAF産生細胞を特定するために免疫組織染色を実施し、神経細胞以外に幅広くLPLAT9が発現することがわかった。同じく脊髄は神経細胞に加え、、アストロサイト、オリゴデンドロサイトが主な構成細胞だが、LPLAT9はミクログリアと一部のオリゴデンドロサイトに発現していた。PNI後7日目に同様の組織染色を行ったところ、後根神経節ではマクロファージ、脊髄ではミクログリアの細胞数が増加しており、それに伴い組織中のLPLAT9発現量が増加していた。そこで、マクロファージとミクログリア特異的にLPLAT9を欠損できるマウスを作製して解析を行った。同マウスでは、PNI後の組織中PAF量の増加が抑制され、疼痛症状も軽減することがわかった。

今回の研究成果によって、PAFシグナルが神経障害性疼痛の新しい治療標的になり得ること、治療標的にすべき細胞種や時期が限定的であることが明らかになった。今回の成果を臨床応用するには、疼痛に苦しむ患者それぞれがどういった状態にあるのかを可視化するバイオマーカーや検査法の開発が課題になると研究グループは指摘している。「本研究はモデルマウスを用いた検証であり、患者にこの知見が応用できるかどうかは、今後の検証が必要。また、マウス疼痛モデル実験ではLPLAT9欠損雄マウスでは疼痛軽減したが、雌マウスでは軽減しなかった。ヒトでも同様かはわかっていない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか