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抗うつ薬ネファゾドンにAChE阻害作用、AD認知症状の進行抑制に有効な可能性-東邦大

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2024年02月14日 AM09:10

認知症の行動・心理症状に用いる向精神薬、AChE阻害の可能性を臨床用量で検討

東邦大学は2月7日、抗うつ薬ネファゾドンについて、臨床で到達可能な血中濃度範囲で既存のアルツハイマー病(AD)治療薬と同様の薬理作用(アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用)を示す可能性を示したと発表した。この研究は、同大東邦大学薬学部薬理学教室の田中芳夫教授、小原圭将講師、吉岡健人講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ADは認知症の原因となる神経変性疾患であり、世界的にその罹患率が大幅に増加している。特に、高齢化が著しく進行している日本では、その患者数の増加が顕著だ。AD患者では、認知機能や学習機能に関与する脳のコリン作動性ニューロンが障害されていることが知られている。例えば、AD患者の脳内では、コリン作動性ニューロン数や記憶・学習に関与する主要な伝達物質であるアセチルコリン(ACh)の合成酵素の活性が低下していることが明らかとなっている。そのため、AD患者に対しては、脳内のAChの量を増加させるために、AChを分解・量を低下させる酵素AChEを阻害する薬物を用いた薬物療法が行われる。AD治療薬によるAChEの阻害は、低下したコリン作動性ニューロンの働きを補うことで、ADの症状の進行を抑制することができる。

ADの主要な症状は認知機能や学習機能が障害される認知症だが、進行に伴い、幻覚、興奮、うつ、不安、睡眠障害などの行動・心理症状(BPSD)も生じることが知られている。BPSDが生じているAD患者では、これを軽減するために、統合失調症治療薬、抗うつ薬、催眠薬、抗不安薬などの向精神薬を用いた治療が行われることがある。これらのBPSDの症状緩和に用いられる薬物が、既存のAD治療薬と同様に、AChE阻害作用を示し、脳内のACh濃度を上昇させる場合、BPSDの症状緩和効果を示すだけでなく、ADの進行抑制に寄与する可能性がある。田中芳夫教授らの研究グループは先行研究により、臨床で使用されている26種類の統合失調症治療薬がヒトAChEの活性を阻害する可能性を検討し、統合失調症治療薬であるアリピプラゾール(商品名:エビリファイ(R))が臨床で達成可能な血中濃度範囲内でAChE阻害作用を発揮する可能性があることを発見した。

統合失調症治療薬以外に、BPSDに使用される一部の向精神薬は、AChEを阻害する可能性が報告されているが、全ての向精神薬に対する網羅的な評価は行われておらず、実際に患者に用いられる用量でAChE阻害作用が発現しうる可能性は検討されていなかった。

抗うつ薬9種・催眠薬2種・1種が、高濃度でAChE活性20%以上阻害

そこで、研究グループは今回、遺伝子組み換えヒトAChEに対する31種類の抗うつ薬、21種類の催眠薬、12種類の抗不安薬の阻害作用をDTNB法により評価した。

まず、臨床で用いられる濃度範囲よりも高濃度な10−4Mを用いて、これらの薬物のAChE阻害作用を評価。その結果、22種類の抗うつ薬、19種類の催眠薬、11種類の抗不安薬はAChE活性を20%未満しか阻害しなかった。一方、9種類の抗うつ薬(クロミプラミン、、セチプチリン、ネファゾドン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、ミルタザピン)、2種類の催眠薬(、ブロチゾラム)、1種類の抗不安薬(ブスピロン)はAche活性を20%以上阻害した。これらの薬物の中でも、ブロチゾラムが最もAChE阻害作用が強力であり、10−6MからAChE阻害作用を示し、そのpIC50値は4.57と算出された。それ以外の薬物はセルトラリンおよびブスピロンは3×10−6Mから、アモキサピン、ネファゾドン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、ミルタザピン、トリアゾラムは10−5Mから、クロミプラミンおよびセチプチリンは3×10−5MからAChE阻害作用を示した。

ネファゾドンのみ、臨床用量で達成可能な血中濃度範囲内でAChE阻害作用

続いて、これらの薬物のAChE阻害作用の効力と文献調査を行うことで得られた、臨床で到達しうる血中濃度範囲を比較。その結果、ネファゾドンのみが臨床用量で達成可能な血中濃度範囲内でAChE阻害作用を示すことが明らかとなった。なお、ネファゾドンは現在、米国のみで使用されている抗うつ薬であり、日本では未発売だ。

AD認知症状へのネファゾドンの効果、限定的な可能性

今回の研究成果により、抗うつ薬ネファゾドンは、抗うつ作用によってBPSDのうつ症状を改善するだけでなく、AChE阻害作用によってADの認知症状の進行を遅らせる可能性がある。ただし、ネファゾドンのAChE阻害作用は、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンといった既存のAD治療薬のAChE阻害作用と比較すると弱いものであるため、ADの認知症状に対するネファゾドンの効果は限定的である可能性がある、と研究グループは述べている。

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