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食物繊維がアレルギーを抑制するメカニズムをマウスで解明-東京理科大

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2024年02月07日 AM09:10

短鎖脂肪酸はマスト細胞の機能をどのように調整しているのか?

東京理科大学は2月1日、短鎖脂肪酸が示すアレルギー抑制作用について、マウス・細胞・遺伝子レベルの解析を組み合わせることにより、その詳細な作用機構の解明に成功したと発表した。この研究は、同大先進工学部生命システム工学科の西山千春教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

マスト細胞は、主にアレルギー反応やアナフィラキシーに関与する免疫細胞で、表面にはIgE抗体の受容体(FcεRI)が発現している。このFcεRIにIgE抗体が結合し、さらに抗原が結合すること、つまりIgE抗体と抗原を介して複数のFcεRIが連結(架橋)することで、マスト細胞が活性化される。マスト細胞は細胞内に多くの分泌顆粒を持ち、活性化すると分泌顆粒が細胞外に放出される「脱顆粒」と呼ばれる現象が生じ、ヒスタミンなどのアレルギー誘因物質を細胞外に大量に放出する。これによりアレルギー反応が引き起こされる。

研究グループは、食品中に含まれる成分や、その腸内代謝産物などが免疫応答に与える影響について研究している。近年、短鎖脂肪酸がマスト細胞の機能を調節することで抗アレルギー作用を示すというデータが蓄積しつつあるが、その背景にある分子的なメカニズムの詳細はまだわかっていなかった。そこで今回、マウス・細胞・遺伝子レベルの解析を駆使して「短鎖脂肪酸がアレルギー反応のエフェクター細胞であるマスト細胞の機能をどのように調整しているのか」について調べた。

短鎖脂肪酸を4~6日間経口投与したマウスで、アナフィラキシーが有意に抑制

まず、受動的全身性アナフィラキシーモデル(IgE抗体を投与し、その後に抗原を投与することで、マウスにアナフィラキシーを誘導するもの)を用いて、マウス生体に対する短鎖脂肪酸の効果を評価した。

すると、、吉草酸)を4~6日間経口投与したマウスでは、アナフィラキシーが有意に抑制されることが判明した。また、受動的皮膚アナフィラキシーモデル(同様の手法で足底の皮膚にアナフィラキシーを誘導するもの)を用いた場合にも、短鎖脂肪酸の経口投与により、アナフィラキシーが抑制されることがわかった。

マスト細胞の短鎖脂肪酸前処置で、脱顆粒・サイトカインの放出を抑制

次に、骨髄由来のマスト細胞を短鎖脂肪酸とともに培養し、マスト細胞に対する短鎖脂肪酸の効果を評価した。すると、短鎖脂肪酸(特に酪酸、吉草酸、プロピオン酸、イソ吉草酸)で前処理したマスト細胞では、IgE抗体により誘導される脱顆粒が抑制されることがわかった。また、各種サイトカインの放出も有意に減少することが明らかになった。

さらに、フローサイトメトリー法および定量的PCR法を用いた実験から、短鎖脂肪酸はFcεRI関連遺伝子の転写を阻害することなく、細胞表面のFcεRI発現量を減少させることが示された。

短鎖脂肪酸の作用機構に関与する2つの経路が判明

短鎖脂肪酸の作用機構を解明するべく、定量的PCR法を用いて、マスト細胞上の膜輸送タンパク質や受容体を調べた。同定されたものの中から、各種阻害剤や遺伝子技術を用いた実験により、短鎖脂肪酸の受容体としてGタンパク質共役型受容体GPR109Aが絞り込まれた。

短鎖脂肪酸が示す抗炎症作用には、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)としての活性が関与することが報告されている。そこで、HDACiの一種トリコスタチンAでマスト細胞を処理し、脱顆粒の程度、サイトカイン放出量、FcεRIのmRNA量、およびマスト細胞表面に発現したFcεRI量を調べたところ、短鎖脂肪酸で処理した場合と同様の結果が得られた。

以上の結果から、短鎖脂肪酸の作用機構には、細胞表面に発現するGタンパク質共役型受容体GPR109Aを介する経路と、HDACiとして免疫関連遺伝子の発現をエピジェネティックに調節する経路、これら2つの経路が関与することが示された。

短鎖脂肪酸はGPR109Aを介しプロスタグランジン促進、アナフィラキシー抑制

今回短鎖脂肪酸の受容体として同定されたGPR109Aは、ニコチン酸(ナイアシン・ビタミンB3の一種)の受容体として知られ、ニコチン酸と結合することでプロスタグランジンの産生を促進する。そこで、プロスタグランジンの合成を阻害するNSAIDs(アセチルサリチル酸、インドメタシン)でマスト細胞を処理したところ、短鎖脂肪酸による脱顆粒抑制効果が阻害された。また、受動的皮膚アナフィラキシーモデルにおいて、ニコチン酸の効果を評価したところ、ニコチン酸はアナフィラキシーを有意に抑制し、その効果はNSAIDsによって打ち消された。

さらに、受動的全身性アナフィラキシーモデルにおける短鎖脂肪酸のアナフィラキシー抑制効果も、NSAIDsによって阻害された。加えて、NSAIDsの作用に関する詳細な解析により、プロスタグランジンのうち、特にプロスタグランジンE2がマスト細胞の活性化を抑えること、複数あるプロスタグランジンE2受容体のうちEP3がアナフィラキシーの抑制に関わること、短鎖脂肪酸やニコチン酸の効果がEP3阻害剤によって減弱化することなども示唆された。

これら一連の結果から、短鎖脂肪酸は、受容体GPR109Aを介してプロスタグランジンの産生を促進することで、マスト細胞の活性化を抑制し、アナフィラキシーの抑制に働くことが明らかになった。

アレルギーに対する食物繊維の有効性が明らかに

今回の研究成果により、アレルギーに対する食物繊維の有効性が明らかにされた。NSAIDsは喘息や炎症性腸疾患などの一部のアレルギーや炎症疾患において憎悪化をもたらすことが知られており、同知見は、その点にも切り込んだと言える。

「アレルギーに対するビタミンの影響も確認されたが、プロスタグランジンの合成には多価不飽和脂肪酸が関係することや分岐鎖脂肪酸は納豆などにも含まれていることをふまえても、食事や日常生活と関連の深いテーマとなったと思う」と、研究グループは述べている。

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