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【IASR速報】劇症型のA群溶血性レンサ球菌感染症、50歳未満の国内報告増-感染研

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2024年01月17日 AM09:30

侵襲性GAS感染症報告数が2022年以降増、海外サーベイランス

国立感染症研究所は1月15日、A群溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus:GAS, Streptococcus pyogenes)による劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)症例およびGAS咽頭炎症例が増加しつつあること、また、2023年夏以降、日本国内で初めて、2010年代に英国で流行した病原性および伝播性が高いとされるS. pyogenes M1UK lineage(UK系統株)の集積が確認されていることを受け、現在の状況をとりまとめて報告した。この報告は同研究所実地疫学研究センターの光嶋紳吾氏、土橋酉紀氏、島田智恵氏、砂川富正氏、実地疫学専門家養成コース(FETP)の高橋あずさ氏、村井晋平氏、伊東花江氏、枡谷真貴氏、大竹正悟氏、細菌第一部の池辺忠義氏、明田幸宏氏、感染症疫学センターの高橋琢理氏、感染症危機管理研究センターの嶋田聡氏、吉見逸郎氏によるものだ。


画像は感染研ウェブサイトより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

STSSは、急激かつ劇的な病状の進行を特徴とする致命率の高い感染症である。STSSは、感染症法に基づく感染症発生動向調査において、5類全数把握疾患と定められている。届出に必要な要件は、ショック症状に加えて肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、軟部組織炎、全身性紅斑性発疹、中枢神経症状のうち2つ以上をともない、かつ通常無菌的な部位(血液など)等からβ溶血を示すレンサ球菌が検出されることであり、要件を満たすと診断された場合、届出対象となる。STSSの病原菌は、A群の他、B群、C群、G群の溶血性レンサ球菌などがある。

GASは病態によって、飛沫感染、接触感染により伝播する。臨床症状は、上気道炎(主に咽頭炎)、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎や壊死性筋膜炎など)、菌血症など多彩であり、それぞれの重症度も軽症例からSTSSに至る重症例までさまざまである。日本におけるGAS感染症に関連したサーベイランスは、STSSの他、小児科定点把握疾患のGAS咽頭炎がある。GAS咽頭炎は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000か所の小児科定点医療機関から毎週報告がされている。一方、海外のサーベイランスは、STSS等を含む侵襲性GAS感染症(通常無菌的な部位からのS. pyogenes検出)として行われており、2022年以降、その報告数は増加している。

国内のGASによるSTSSは2023年340例、50歳未満で死亡の割合増

感染症発生動向調査に届出されたGASによるSTSS症例は、過去6年間(2018年以降、ただし2023年は1月1日~12月17日)で2023年は2番目に報告数が多く、340例の報告(最も多い年は、2019年415例)があった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行開始後である2020~2022年の報告数は減少していたが、2023年7月以降、50歳未満を中心として報告数が増加した。

届出時死亡例は、過去6年間で2023年は2019年の101例に続き2番目に多く、97例の報告があった。特に50歳未満において、報告数に占める届出時の死亡数の割合が、2023年7月以降32.3%(65例中21例)と増加した(2018年17.4%、2019年19.8%、2020年8.6%、2021年6.9%、2022年9.8%、2023年1~6月12.5%)。

2023年8月以降UK系統株によるSTSS患者が関東地方で集積

GASの分類は、病原因子として知られているMタンパク質をコードするemm遺伝子配列で行われ、emm1型であるM1型株が最も多く分離される。2011年以降、英国にてM1型株の中でも、特徴的な27種類の単塩基置換を有するUK系統株の分離頻度が増加し、欧州、北米、豪州等ではUK系統株がM1型株の中で主要な分離系統となっている。UK系統株は、UK系統株ではないM1型株(以下、従来株)と比較し、発赤毒素の産生量が約9倍多く、伝播性も高いとされている。

衛生微生物技術協議会溶血レンサ球菌レファレンスセンターへ集められた日本全国のSTSS患者から分離されたGASの菌株解析(PCR法)(2023年11月30日時点)によると、2018~2023年において、STSS患者から収集されたGAS760株のうち、M1型株は215株(28.3%)であった。そのうちUK系統株は50株(23.3%)(2018年7株、2019年23株、2020年4株、2021年1株、2022年1株、2023年14株)、従来株は165株(76.7%)(2018年63株、2019年71株、2020年9株、2021年6株、2022年0株、2023年16株)であり、M1型株に占めるUK系統株の割合は、2018年10.0%、2019年24.5%、2020年30.8%、2021年14.3%、2022年100%、2023年46.7%であった。STSS患者の年齢中央値〔四分位範囲〕はUK系統株で59歳〔37-72歳〕(n=50)、従来株で65歳〔45-73歳〕(n=165)であった。また、2023年8月以降、関東地方において、都道府県単位でUK系統株によるSTSS患者の集積を認めた(GAS19株中、M1型株10株、うち9株UK系統株)。

GAS咽頭炎の小児科定点当たり報告数、過去6年で最高更新

GAS咽頭炎の小児科定点当たり報告数は、COVID-19流行開始後である2020~2022年は減少していたが、2023年第33週(8月14日~8月20日)から急増し、過去6年の中で、第46週(11月13日~11月19日)(定点当たり報告数3.79)以降、最高値を更新している。

一般市民への感染予防啓発、有症状時の早期受診の推奨必要

2023年7月以降は、特に50歳未満を中心としてGASによるSTSS症例報告数が増加するとともに、50歳未満において報告数に占める届出時の死亡数の割合の上昇がみられた。また、GAS咽頭炎の定点当たり報告数の増加や、UK系統株の地域集積も認められた。しかし、現時点では、このGASによるSTSS症例報告数の増加、GAS咽頭炎の定点当たり報告数の増加、UK系統株との相互の関連は不明である。現状を明らかにするためには、病原性および伝播性が高いとされるUK系統株の国内での発生状況、疫学的特徴を把握する必要があり、積極的な菌株収集、疫学情報の収集が求められる。なお、菌株解析は、感染症発生動向調査に報告されたGASによるSTSS症例の一部の症例にのみにしか行われておらず解釈には注意が必要である。

また、さらなる感染拡大が懸念されることから、「公衆衛生対応として、臨床医への適切な診断、治療、報告の推奨、一般市民への感染予防策(手指衛生、咳エチケット)の啓発、有症状時の早期受診の推奨が必要と考えられる」とし、注意を呼びかけている。

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