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アルツハイマー病の早期発症予測に役立つ機械学習モデルを開発-京大ほか

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2024年01月10日 AM09:30

アミロイドβ脳内蓄積量予測の際、ペアデータがあまりなくても予測するには?

京都大学は12月26日、アルツハイマー病の予兆候補の発見に役立つ機械学習モデル開発したと発表した。この研究は、同大大学院統合生命科学研究科の本田直樹特命教授(兼任:広島大学教授、生命創成探究センター客員教授)と広島大学大学院統合生命科学研究科データ駆動生物学研究室の矢田祐一郎特任助教の研究グループによるもの。研究成果は、「npj Systems Biology and Applications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アルツハイマー病は、認知症の中で最も一般的な疾患だ。アルツハイマー病患者の脳では神経細胞が変性して細胞死が生じ、それが直接的な原因となり機能障害が起きる。また、神経細胞変性の10~20年ほど先立ち、「」と呼ばれるタンパク質の蓄積が生じることが知られている。脳脊髄液中のアミロイドβ量の測定や陽電子放射断層撮影(PET)によるアミロイドβイメージングは、アルツハイマー病の診断に有用だ。しかし、それら脳内のアミロイドβ蓄積を間接的に判定する方法は、現状では高額なコストや侵襲性などのため、発症前の健康な人に対して適用する上での困難を抱えている。さらに、蓄積のごく初期段階での有効性は不明だ。そのため、脳内のアミロイドβの蓄積量を予測できる簡便で非侵襲に計測可能なバイオマーカーがあれば、アルツハイマー病の早期発症予測などに有用と考えられる。

バイオマーカー候補から脳内のアミロイドβ量を予測する問題を考える上では、通常はバイオマーカー候補とアミロイドβ量を同じ個体から計測した「ペアデータ」が必要になる。アルツハイマー病の新規バイオマーカーを探索する際はモデル動物を用いることが多いが、金銭的なコストと労力がかかるため、アミロイドβ量を同じサンプルで定量する例は多くない。そのため、アミロイドβの予測性に基づくバイオマーカー探索をするためには、ペアデータがあまりない場合でも予測可能な方法が必要だった。

提案モデルでは、バイオマーカー候補の観測値からアミロイドβ量の予測値を計算可能

研究グループは、アミロイドβとバイオマーカー候補のペアデータが限られている場合でもバイオマーカーからアミロイドβを予測可能な「機械学習モデル」と「学習アルゴリズム」を提案した。この機械学習モデルはマウスなどのモデル動物を使用し、いくつかのバイオマーカー候補が計測されている状況を想定している。

提案モデルでは、アミロイドβ量が時間に対してシグモイド曲線に従って蓄積すると仮定する。曲線の最大値・時間的位置・急峻さを決めるパラメータは個体ごとに異なる。アミロイドβの蓄積状態をアルツハイマー病の進行度を表す指標と見立てて、バイオマーカー候補はその指標に基づいた値が観測されると仮定する。ただし、観測値がどの程度指標の影響を受けるかは、バイオマーカー候補によって異なる。

提案モデルの学習では、「シグモイド曲線のパラメータ」と「各バイオマーカー候補がアミロイドβ状態からどの程度影響を受けるか」をデータから推定。ここでは、ペアデータが多くない場合でも、ベイズ学習(事前に手に入るデータから得た知識を元にして、新たなデータを学習して知識を更新する機械学習法)と、半教師あり学習正解のあるデータと無いデータの両方を使って学習する機械学習法というテクニックを使用することで学習を可能にした。同モデルでは、バイオマーカー候補の観測値からアミロイドβ量の予測値を計算することができるという。

公開マウス実験データで、行動特徴から海馬のアミロイドβ量が予測できることを実証

さらに、提案したモデルと学習アルゴリズムを公開されているマウスデータに適用し、予測性能を評価した。このデータでは健康な野生型のマウスと、アルツハイマー病のモデルマウスである5xFADマウスに対して、何点かの月齢でいくつかの行動実験を実施し、複数の行動特徴を計測している。また、アミロイドβ量を電気化学発光免疫測定法(標的タンパク質と抗体の反応を電気化学的に検出した結果からタンパク質量を高感度で定量する手法)により定量している。ただし、大半のマウスは行動特徴とアミロイドβ量のどちらかしか計測されておらず、一部の個体のみ両者が取得されたペアデータがある。

このデータを使用して提案した機械学習モデルを学習し、学習に使用しなかったマウスの全行動特徴からアミロイドβ量が予測できるかを交差検証したところ、大半のマウスでは海馬のアミロイドβ量が予測できることがわかった(Aβ40、Aβ42はアミロイドβの主要なサブタイプ)。ペアデータの数をさらに少なくした場合でもあまり予測性能は変わらず、少ないペアデータに対して十分に適用可能な機械学習モデルになっていることがわかったとしている。

実験で得た複数の特徴がアミロイドβ量を予測するバイオマーカーとして有用

次に、アミロイドβ量の予測にどの行動特徴が重要だったかを評価した。最初に、全行動特徴から特定の一つの特徴を除外した場合の予測性能を、除外する特徴を入れ替えながら順次評価。さらに、除外した場合に予測誤差が大きくなった順に行動特徴を並び替え、上から順番に使用する特徴数を増やしていった場合の予測誤差を評価した。

すると、全特徴を使用した場合と同程度の予測性能が出るのは11特徴中10個を使用した場合で、ある程度良い性能が出るのは5つの特徴を使用した場合になると判明した。この5つの特徴には、3つの異なる実験から取得された特徴が含まれていた。これは、多様な方法で取得された複数の特徴がアミロイドβ量を予測するバイオマーカーとして有用である可能性を示唆している。

開発された機械学習モデルのアプローチは、他の神経変性疾患にも応用可能

今回の研究で開発された機械学習モデルと学習アルゴリズムを利用することで、アミロイドβの予測に基づいたアルツハイマー病バイオマーカーの開発に貢献することが期待される。アルツハイマー病発症前から蓄積が開始するアミロイドβの蓄積量を定量的に予測できるバイオマーカーは、アルツハイマー病の早期発症予測に重要と考えられる。同モデルを利用することで、これからアミロイドβ予測バイオマーカーの探索実験をする際に、全ての個体でペアデータを取得する必要がなくなり、効率の良い実験が可能となる。また、これまでに取得されたモデル動物でのバイオマーカー探索実験データを、アミロイドβ予測バイオマーカー探索に有効活用することも可能だとしている。

同研究はモデル動物での実験データを対象としているが、今後ヒトでのデータも扱える機械学習モデルへと発展させていくことが期待される。また、パーキンソン病など他の神経変性疾患でも、異常なタンパク質の蓄積に続いて神経細胞の変性が起き、機能障害が引き起こされるという流れは共通していることから、提案モデルのアプローチは他の神経変性疾患にも応用可能と考えられる。「今後、それらの疾患に対しても、予測に基づいたバイオマーカーの開発に提案モデルが貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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