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妊娠中の体重増加の過不足と子の出生体重の関連を国内ビッグデータで解析-NCGMほか

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2023年12月26日 AM09:30

妊娠中体重増加が出生体重に与える効果は?35万人以上を解析

(NCGM)は12月21日、35万人以上の周産期データベースを用いて、日本人集団の出生体重適正化のための母体体重管理についてシミュレーションによる検討を行い、その結果を発表した。この研究は、日本女子大学家政学部食物学科の佐藤憲子教授、同センター国際医療協力局の春山怜医師、東京医科歯科大学生殖機能協関学分野(周産・女性診療科)宮坂尚幸教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

母親の妊娠前のBMIと妊娠中体重増加量の不足や過剰は、妊娠合併症(母体合併症あるいは低出生体重および巨大児などの新生児合併症)のみならず、児の将来の健康や特定の疾患の罹りやすさに影響を及ぼすことが知られている。日本では特に出生体重が低いことが懸念され、妊婦のやせと妊娠中体重増加量の不足がその重要な要因とされている。妊娠中体重増加量は、妊娠前の体格に応じて調整可能な因子として注目され、肥満でない妊婦の妊娠中体重増加量を従来よりも増やす必要があると考えられていた。

2021年に「妊娠中の体重増加指導の目安」が改訂され現在に至っている。日本人妊婦の9割以上はBMI25未満の低体重(やせ)か普通体重だが、2021年の改定ではBMIが25未満の妊婦の体重増加量の目安の下限を従来に比べて3kg引き上げられている。しかしここでは、低出生体重児の頻度を減らすことに主に注意が払われ、妊婦の体重増加量を増やすことによる出生体重上昇効果が児によって異なることは考慮されていない。すなわち妊婦の体重増加量を増やすことによる出生体重上昇効果は、大きな胎児をより大きくする影響のほうが、小さな胎児の出生体重を増加する効果よりもずっと高いという点が見過ごされている。

妊娠中体重増加量を増やしても、小さな胎児の出生体重を増やす効果は低い

研究グループは、2013年~2017年に日本産科婦人科学会の周産期データベースに登録されたデータのうち、35万人以上の単胎初産症例のデータセットを用い、在胎期間別出生体重の各分位における妊娠中体重増加の出生体重上昇効果(回帰係数)を、分位点回帰モデルを用いて計算した。その結果、回帰係数は、低い出生体重の分位点では小さく、分位が高くなるにつれ大きくなった。これは、妊娠中体重増加量を増やした場合、低い出生体重で生まれるリスクのある児に対しては、それが出生体重を上昇させる効果は低く、むしろ巨大児のリスクのある児に対して高くなることを示している。

一律に体重増加量を3kg増やすと、在胎不当過小児2.07%減、3.38%増

次に、この分位点回帰分析で導出された在胎期間別出生体重の予測式を用いて、妊娠中体重増加量を変化させた場合の出生体重を算定し、それによる在胎不当過小児割合や在胎不当過大児割合の変化をシミュレーションによって解析した。具体的には妊娠中体重増加量管理の戦略として、BMI25未満の妊婦のみの体重増加量を一様に3kg増やした場合と、体重増加不足者の体重増加量を3kg増やし過剰者の体重増加量を3kg減らした場合を比較した。その結果、一様に3kg増やした場合には、不本意に在胎不当過大児の割合を3.38%増やしてしまい、その増加分は在胎不当過小児割合の減少率2.07%よりも大きいことがわかった。一方、体重増加の過不足に応じて体重増加量を調整した場合は、在胎不当過大児割合の増加を0.37%に抑えることができた。

肥満でない妊婦に一様に体重増加量を増やす戦略ではなく、個別の対応が重要

児の生涯の健康を維持向上させるには、胎内での健全な発育が必要で、そのためには妊娠中体重増加の適切な管理が重要である。ここで、体重増加の不足を防ぐだけではなく、難産や妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、巨大児等の合併症リスクを低減させるために体重増加が過剰にならないよう管理することも重要だ。妊娠中体重増加の出生体重に与える効果は、分位が高くなるにつれ大きくなる。従って、海外のように肥満や妊娠中体重増加量の過剰が問題となる場合は、肥満の妊婦の妊娠中体重増加量を一様に減らす戦略で効果的に在胎不当過大児の割合を減らすことができるが、日本のように低体重と妊娠中体重増加量の不足が問題となる場合は、肥満でない妊婦に一様に妊娠中体重増加量を増やす戦略では、不本意に在胎不当過大児の割合を増やしてしまう。つまり、妊娠前体格が低体重や普通体重の妊婦であれば全員妊娠中体重増加量を増やせばよいというわけではない。現時点での最善の方法は、一人ひとりの妊婦に対して体重増加の不足や過剰の有無について定期的に確認し、また他のさまざまな個の特性も考慮した上で注意深くアドバイスをすることだと考えられる。

「この研究の特徴は、妊娠中体重増加量に関する異なる戦略の出生体重に与える効果の違いを、臨床的に介入試験を行うことなく、ビッグデータを用いたシミュレーションによって算定した点だ。また、最近作成された日本人の「妊娠中の体重増加曲線」を活用して判定した妊娠経過途中の体重増加の過不足が、最終的な妊娠中体重増加量の過不足と一定程度一致していることを明らかにしした。研究結果は、管理栄養士を含む医療従事者が妊婦に体重管理のアドバイスを行う際に役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。

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