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骨髄/NK前駆細胞性急性白血病、L-アスパラギナーゼ治療が有効と判明-東京医歯大ほか

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2023年12月18日 AM09:20

希少で予後不良な骨髄/NK前駆細胞性急性白血病、臨床像や分子病態の多くが未解明

東京医科歯科大学は12月14日、骨髄/ナチュラルキラー(NK)前駆細胞性急性白血病が、従来知られていた白血病から独立した疾患概念であることを明らかにし、L-アスパラギナーゼが有効な治療薬であることをつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科茨城県小児・周産期地域医療学講座の髙木正稔教授、日本小児血液・がん学会白血病・リンパ腫委員会らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

白血病は血液を作る骨髄において、血液細胞を作る過程で生じた血液のがんである。白血病細胞が異常に増加して骨髄を占拠することで正常の造血が阻害されるため、感染症、貧血、出血などの症状が出現する。がん化する血液細胞の種類により大きく「骨髄性」と「リンパ性」に、病気の進行パターンや症状により「急性」と「慢性」に分類される。しかし、いずれにも分類されない「骨髄性」と「リンパ性」の性格を同時に持つものや、NK細胞の形質を持つものなど希少な白血病も存在することが知られている。

骨髄/NK前駆細胞性急性白血病は1997年に初めて報告された髄外浸潤を特徴とする非常にまれな白血病で、東アジアに多いことが知られている。しかし、WHO分類では該当する疾患概念がない。予後不良とされているが、これまでその希少性からその臨床像は十分解明されていなかった。また、その分子病態に関しても、全く研究が行われていなかった。それゆえ適切な治療法も確立されていなかった。

アンケートによる希少白血病の全国調査+検体の分子生物学的解析を実施

日本小児血液・がん学会の事業の一環として、アンケート調査により骨髄/NK前駆細胞性急性白血病を含む希少白血病の全国調査を行った。その結果を基に骨髄/NK前駆細胞性白血病の臨床情報を解析し、また、分子病態を明らかにするために検体を収集し、分子生物学的な解析を行った。

解析から、・RUNX3活性化/BCL11B低発現を特徴とする独立した白血病と判明

日本全国から15人の骨髄/NK前駆細胞性白血病の臨床情報が収集できた。小児から成人までその発症は広く見られ、5年全生存率は36.7%と不良だった。

分子遺伝学的な解析として、13人の全エクソン解析または全ゲノム解析、6人の全トランスクリプトーム解析、7人のDNAメチル化アレイ解析を行った。2人において単一細胞RNAシークエンス解析を正常骨髄と比較した。その結果、NOTCH経路にかかわる分子の遺伝子変異が54%に、染色体転座や欠損などの構造異常を含めたETV6遺伝子の異常が38%に認められた。全トランスクリプトーム解析の結果、骨髄/NK前駆細胞性急性白血病は他の白血病から独立した白血病であることが明らかとなり、NOTCH1の異常、RUNX3の発現亢進、BCL11Bの発現低下が認められた。

以上のことから、骨髄/NK前駆細胞性急性白血病はNOTCH1、RUNX3の活性化、BCL11B低発現を特徴とした白血病であることが明らかとなった。NK細胞の発生は、古典的にはリンパ系細胞に由来すると考えられてきたが、単一細胞RNAシークエンス解析から、NK細胞と骨髄系細胞は共通の前駆細胞を持つことが示唆され、骨髄/NK前駆細胞性急性白血病はこの段階での細胞が腫瘍化したものであることが明らかとなった。

L-アスパラギナーゼ併用の治療法が有用と判明

オミクス解析とin vitro薬剤感受性試験により、骨髄/NK前駆細胞性急性白血病はアスパラギン合成酵素レベルの低下があり、L-アスパラギナーゼに対する感受性が高いことが、その特徴であることが明らかになった。また、収集した臨床情報からもL-アスパラギナーゼを加えた急性骨髄性白血病タイプの治療を受けた骨髄/NK前駆細胞性急性白血病患者は100%の生存を示しており、L-アスパラギナーゼ併用した急性骨髄性白血病に用いられる治療法が骨髄/NK前駆細胞性急性白血病に有用であることが明らかになった。

白血病のWHO分類の改定や、治療法確立につながると期待

今回の研究成果により、骨髄/NK前駆細胞性急性白血病が一つの独立疾患概念であることを分子生物学的に証明したことから、将来的な白血病のWHO分類改定につながることが期待できる。また、効果的に作用する薬剤を同定し、疫学的な視点でもより効果的な治療法を示せたことから、この疾患に標準的な治療法確立につながる可能性がある。

「腫瘍細胞の解析にとどまらず、NK細胞分化過程全体の理解、そして、NK細胞の操作による細胞療法に応用可能な基礎研究成果につながる。研究成果による波及効果として、NK細胞分化機構の全体像の理解は、近年注目されている免疫細胞療法に応用可能なiPS細胞由来NK細胞の効率的な作製にも応用できる」と、研究グループは述べている。

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