医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 近赤外光線免疫療法、その場で効果予測が可能な新技術の開発に成功-名大

近赤外光線免疫療法、その場で効果予測が可能な新技術の開発に成功-名大

読了時間:約 3分13秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年08月09日 AM10:30

第5のがん治療として期待される近赤外光線免疫療法

名古屋大学は8月8日、手術・放射線・化学療法・がん免疫療法に続く“第5のがん治療”といわれる近赤外光線免疫療法の効果を予測する新たな画像評価技術開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・最先端イメージング分析センター/B3ユニットフロンティア長・高等研究院(JST創発的研究支援事業1期生)の佐藤和秀特任講師、同大大学院医学系研究科総合保健学専攻オミックス医療科学の松岡耕平大学院生、佐藤光夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「EBioMedicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

光を用いた治療技術は数多く研究されており、その一部は実用化されている。近年では、2011年に米国国立がんセンター・衛生研究所(National Cancer Institute, National Institutes of Health)の小林久隆博士らが報告した近赤外光線免疫療法が新しいがん治療法として注目されている。この治療法ではがん細胞が発現するタンパク質を特異的に認識する抗体と光感受物質IR700の複合体を合成し、その複合体が細胞表面の標的タンパク質に結合している状態で690nm付近の近赤外光を照射すると細胞を破壊し、いわゆる「細胞死」の状態になる。これらの機序は、佐藤和秀特任講師らによって、光化学反応をもとにした新概念の細胞死であることが2018年に明らかにされている。これまでと異なる方法でがん細胞を標的破壊できることから、手術・放射線・化学療法・がん免疫療法につづく、“第5のがん治療”として期待されており、世界に先駆けて日本で2020年9月にEGFRを高発現する再発既治療頭頸部がんに対して、承認を受けて保険適用されている。

施術の場で簡便に光照射の適切な完遂を確認できる技術が必要

上記のように、近赤外光線免疫療法は新規がん治療法として期待されているが、光の照射が不十分だと治療効果が減少してしまうため、改めて追加治療が必要になったり、再発してしまったりする可能性がある。光は組織内で反射や散乱により減衰することで均一な照射が困難なため、光照射の完遂を適切に判断できる指標が求められていた。加えて、施術の場で光照射が適切に行われているかを判断できれば、必要に応じて追加の光照射がその場で可能となり、患者へのメリットが大きいと考えられる。そのため、光照射施術中、ないしは施術直後に光照射が適切かどうかを判断できる技術開発が求められていた。

近赤外光線免疫療法後の腫瘍に「マイクロサイズ超EPR効果」を発見

近赤外光線免疫療法で治療した腫瘍は、血管透過性が増し高分子薬剤が腫瘍内に貯留する「」が増大しており、超EPR効果(super enhanced permeability and retention、SUPR効果)と名付けられている。従来、腫瘍におけるEPR効果はナノサイズの粒子に限られ、約20nm~200nmのサイズの粒子が腫瘍に滞留することが知られている。このEPR効果を応用した抗がん剤は既に治療で使われている。

今回の研究ではまず、蛍光ナノ粒子である800nm量子ドット(サイズ;20~30nm)が近赤外光線免疫療法で治療した腫瘍にSUPR効果で集積することを確認した。治療した腫瘍を透明化する技術を用いて透明化したところ、血管領域の拡大が3D画像解析で証明された。このことから、より大きなサイズの粒子が滞留する可能性を仮説とし、2µm、5µmサイズの蛍光粒子(近赤外蛍光乳酸・グリコール酸共重合体;NIR-PLGA、poly lactic-co-glycolic acid)で検討し、どちらのサイズでも滞留性が上昇することを新規に発見した。また、この滞留性が高いほど近赤外光線免疫療法の抗腫瘍効果が高いことを見出した。

マイクロバブルの滞留性で治療効果の程度を推定可能と判明

「マイクロサイズ超EPR効果(micro-sized SUPR effect)」概念は新規のもので、研究グループは同機構を応用して、2µmのサイズであるマイクロバブルの滞留性を超音波画像検査で評価する新技術に結びつけた。マイクロバブルの滞留性が大きいほど、近赤外光線免疫療法の治療効果が高く、この簡便な方法で光照射後すぐに治療効果の程度が推定できることが判明した。

臨床応用のハードル低く、近赤外光線免疫療法の適切な効果向上に期待

マイクロバブル造影剤を用いた超音波検査である造影超音波検査は、肝臓腫瘍の診断薬と診断方法として広く病院で用いられている医療技術であり、今回開発されたマイクロバブル造影剤の滞留性によって近赤外光線免疫療法の治療効果を確認する方法のハードルは、ソフト、ハードの両面からも低いと考えられるという。このため研究グループは、同評価技術のさらなる最適化を進めるとともに、臨床試験への移行に向けた基礎検討、非臨床試験を実施することで、近赤外光線免疫療法のより適切な治療の実施とその効果の上昇が期待できると考えている。研究グループは、「日本発の近赤外光線免疫療法のバイオマーカーとしての技術開発を今後も展開し、患者への貢献をしていきたいと考えている」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか