医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 遺伝子診断を迅速化する新手法を開発、ミトコンドリア病で実証-千葉県こども病院ほか

遺伝子診断を迅速化する新手法を開発、ミトコンドリア病で実証-千葉県こども病院ほか

読了時間:約 2分52秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年04月26日 AM11:37

ミトコンドリア病などの遺伝子診断において、VUSは解決すべき重大な課題

千葉県こども病院は4月25日、ミトコンドリア病の遺伝学的検査で見つかることが多い「臨床的意義の不明なバリアント()」 に対して、マルチオミクス解析を駆使して病的意義の評価を可能にすることに成功したと発表した。この研究は、同病院遺伝診療センター・代謝科の村山圭部長、順天堂大学難病の診断と治療研究センターの杉浦歩講師、岡﨑康司教授、近畿大学理工学部生命科学科の木下善仁講師(兼 順天堂大学難病の診断と治療研究センター)、埼玉医科大学小児科の大竹明特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Genetics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能異常が原因となる病気を総称して呼ばれる疾患で、発症年齢や症状、遺伝形式は多岐に渡る。この疾患は臨床的および遺伝的に診断が非常に難しく、診断率はおよそ40%である。遺伝子診断において臨床的意義不明なバリアント(VUS)は、最終診断まで非常に時間がかかる事態につながり、診断における大きな障壁となる。これはミトコンドリア病だけの問題ではなく、遺伝学的検査を行う上で共通する重大な解決すべき課題として認知されている。

網羅的かつ簡便な細胞実験系の構築により、VUSの機能的意義を決定し病的バリアントも発見

研究グループは、これらの問題を解決するため、VUSを網羅的かつ簡便に検証することが可能な実験系を構築した。今回、ミトコンドリア病の一種であるLeigh症候群などの原因となるECHS1遺伝子を対象にして、VUSの検証を行った。過去のゲノム解析から同定された病的バリアントあるいはVUS、さらに東北メディカルメガバンクに登録されていた健常者由来のレアバリアント(ただしヘテロ接合状態)を検証の対象とした。

まず、研究材料として、ECHS1遺伝子を欠損させた細胞を作製した。その細胞に対して、正常なECHS1遺伝子を含む遺伝子発現ベクターを導入した。簡便な評価方法としてATP量の測定を指標とし、正常なECHS1遺伝子の導入でATP量の回復を示すことを確認した。さらに、既知の病的バリアントあるいはVUSを、遺伝子発現ベクターを用いてECHS1遺伝子欠損細胞に導入した。VUSの遺伝子機能が失われていれば、ATP量の回復がされないはずである。この検証によって、これまでVUSとして留まっていたバリアントの機能的意義を決定し、いくつかのバリアントに関しては病的と判定することができた。東北メディカルメガバンクに登録されていたバリアントにおいても機能喪失を示す結果を得たため、病気の発症に関与する可能性が示唆された。

マルチオミクス解析の前にVUS検証を行ったことで、病的バリアントを迅速に判定

研究グループは、上記の方法によるVUS検証と並行してマルチオミクス解析による診断にも取り組んだ。この解析からECHS1遺伝子のRNA発現およびタンパク質の発現低下を示す症例を見出し、c.489G>Aのバリアントがスプライシング異常を介して、遺伝子発現に影響することを明らかにした。さらに、これらの症例ではc.489G>Aの他に、上記のATPによる解析で検証したバリアントも持っていた。つまり、先に検証を行っていたことで、迅速に病的なバリアントとして判定することができた。これに関連したバリアントを、過去のゲノム解析データの中から検索したところ、さらなる症例の発見につながった。

早期診断・治療の実現につながる成果、他の遺伝子異常にも応用可能

今回の成果において、VUSを検証するための簡便かつ迅速な検証方法を新たに構築することができ、複数のVUSを病的と判定するに至った。さらに、マルチオミクス解析との組み合わせで新規の症例を確定診断することができた。先だってVUS検証を行ったことで、より迅速な診断に至ることができた。ECHS1遺伝子異常による疾患はバリン制限食により症状を緩和することが可能であることが示されている。より早期の介入が重要であり、迅速な診断はその後の予後を左右する。つまり、今回確立したVUSの意義付けを用いて迅速な診断をつける取り組みは、臨床の現場において非常に大きな意義を持ち、今後の早期診断および早期治療を実現する手助けとなるはずである。「本研究において構築した検証方法は他の遺伝子異常にも応用可能であり、既に複数の遺伝子で同じ検証方法が利用できることを確認している。拡張性のある検証方法で、今後の発展が大いに見込まれる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 認知症、スティグマ軽減型の新検査法開発-順大ほか
  • 看護師は「医師診断に懸念を抱いても伝えられない」、国内調査結果-順大
  • 難治性疼痛の脊髄刺激療法、効果をfMRI検査で事前予測できることを発見-神戸大
  • 胎児における最初の赤血球産生に「低酸素状態」が必須と判明-東北大ほか
  • 脳の老廃物の除去機構を発見、アルツハイマー病予防法確立に期待-金沢大