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JAK1遺伝子の機能獲得変異が「自己炎症性角化症」を引き起こすと判明-名大ほか

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2022年01月05日 AM11:30

自己炎症性角化症を正確に診断し、適切な治療を行うことが求められている

名古屋大学は1月4日、JAK1遺伝子の機能獲得変異による、新規の自己炎症性角化症を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学の秋山真志教授、武市拓也講師、St John’s Institute of Dermatology, King’s College London, Guy’s HospitalのJohn A. McGrath教授、藤田医科大学医学部皮膚科の杉浦一充教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより

研究グループは2017年に、自己炎症を発症機序として持つ炎症性角化症の新しい疾患概念として、「自己炎症性角化症」を提唱した。近年、自己炎症性角化症に含まれる疾患は増えつつある。自己炎症の性質を持つ炎症性角化症の病態を、全身性の自己炎症という遺伝学的背景を視野に入れて考えることは、患者の病態把握や適切な治療法を選択する上でとても重要だ。したがって、自己炎症性角化症の患者を正確に診断し、適切な治療を行うことが求められている。

JAK1遺伝子によりコードされるJAK1は、ヤヌスキナーゼと呼ばれるチロシンキナーゼの一つで、自然免疫をはじめ、さまざまな細胞のシグナル伝達機能に重要なタンパク質だ。STATファミリーは、シグナル伝達や転写因子として機能する分子で、JAK/STAT経路は、細胞表面の受容体とインターフェロンやインターロイキンと呼ばれるサイトカインとの反応を中継することで、炎症プロセスの制御に不可欠な役割を果たしている。サイトカインが受容体に結合すると、STATはJAKによりリン酸化されて細胞の核内に移行し、標的となる遺伝子の発現を誘導する。最近、JAK1遺伝子のヘテロ接合性変異が、多臓器の免疫機能障害を特徴とする常染色体優性疾患に関与していることが報告されたが、その表現型については、まだ明らかにされていなかった。

Jak1遺伝子変異ノックインマウスでJAK1タンパク質とSTATファミリー活性化の亢進を証明

研究グループは最初に、既知の原因遺伝子に変異を認めない炎症性角化症患者のDNAを用いて全エクソームシークエンス解析を行い、未報告のJAK1遺伝子変異を同定した。この患者は重度のアトピー性皮膚炎様の皮膚症状に加え、重度の肝機能異常と、自閉症スペクトラム障害を合併していた。また、同患者の皮膚組織では、健常人と比較してリン酸化されたJAK1タンパク質の発現が増加し、さらにSTATファミリータンパク質のリン酸化も増強されていた。

次に、ヒトのJAK1遺伝子と相同のマウスのJak1遺伝子に、この自己炎症性角化症の患者が持つ遺伝子変異に相当する部分のJak1遺伝子変異を持つマウス(Jak1遺伝子変異ノックインマウス)を作製した。そして、Jak1遺伝子変異ノックインマウスと野生型マウスの間で、タンパク質と遺伝子発現の比較を行った。その結果、Jak1遺伝子変異ノックインマウスの皮膚組織と肝臓組織では野生型マウスと比較して、JAK1タンパク質とSTATファミリータンパク質のリン酸化が増強されていた。また、Jak1遺伝子変異ノックインマウスの皮膚組織、肝臓組織、脳組織では、野生型マウスと比較して、チロシンキナーゼ活性の亢進と、その下流のNF-κBと呼ばれる転写因子の活性化に関連する遺伝子の発現上昇が見られたという。

患者の肝機能異常と自閉症スペクトラム障害は、JAK1遺伝子の機能獲得変異によるものと判明

さらに、自己炎症性角化症患者のJAK1の機能を調べるために、野生型のJAK1タンパク質と患者に見られる変異型JAK1タンパク質を、ヒトの培養細胞に形質導入する実験を行った。その結果、変異型JAK1タンパク質を発現させた培養細胞では、野生型JAK1タンパク質を発現させた細胞と比較して、JAK1タンパク質とSTATファミリータンパク質のリン酸化の増加が確認できた。

これらの結果より、今回解析を行った自己炎症性角化症患者の皮膚、肝臓、脳神経系で見られた症状は、患者が持つJAK1遺伝子の機能獲得変異により、JAK1タンパク質とSTATファミリーのリン酸化が過剰に誘導され、NF-κB経路などの活性化を介した自己炎症機序で引き起こされていることが示唆された。

JAK/STAT経路やNF-κB経路を標的とした治療法に期待

今回の研究から、JAK1遺伝子の機能獲得変異が、自己炎症性角化症を引き起こすことが明らかとなった。同研究成果により、JAK1遺伝子変異に起因する表現型が拡大するとともに、合併し得る肝障害と自閉症スペクトラム障害の病態メカニズムが明らかになった。

「JAK1遺伝子の機能獲得変異を持つ自己炎症性角化症の患者には、JAK/STAT経路やNF-κB経路を標的とした治療法の効果が期待される」と、研究グループは述べている。

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