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脳腫瘍の術中遺伝子解析を25分で実現、高精度診断システム開発-名大ほか

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2025年09月05日 AM09:30

神経膠腫含む脳腫瘍、手術中の迅速な分子診断が望まれるが既存の解析法では困難

名古屋大学は8月25日、脳腫瘍で最も多い神経膠腫の診断に重要な2つの遺伝子変異を、術中25分以内に検出する新しい解析手法を確立し、従来の手法に比べて大幅な時間短縮が可能となったと発表した。今回の研究は、同大大学院医学系研究科脳神経外科学の前田紗知研究員、大岡史治講師、齋藤竜太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuro-Oncology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳腫瘍の中でも神経膠腫は、進行が早く再発率も高いため、早期の正確な診断と的確な治療方針の決定が極めて重要である。近年では、腫瘍の組織診断だけでなく、遺伝子解析にもとづく分子診断が脳腫瘍分類の中心となり、なかでもIDH1遺伝子変異とTERTプロモーター変異は、腫瘍細胞の分子マーカーになるのみでなく、腫瘍のタイプや悪性度を判断する上で重要な分子マーカーであると考えられている。これらの分子異常を手術中に把握することができれば、術中に正常組織との鑑別や、腫瘍の性質を考慮した摘出範囲の検討に有用な情報となると考えられる。従来の遺伝子解析法では、これらの遺伝子解析の結果が得られるまでに1~2日を要するのが一般的であり、手術中に腫瘍の分子情報を得ることは困難だった。

術中分子診断システムを開発、120例でIDH1・TERTプロモーター変異の迅速検出を検証

今回の研究では、マイクロ流路技術を用いた高速リアルタイムPCR装置「GeneSoC(R)」(杏林製薬)と、加熱処理のみで高品質DNAを抽出できる独自のプロトコルを組み合わせることで、術中に神経膠腫の分子診断を行うための新たな遺伝子解析システムを開発した。同システムにつき、脳腫瘍症例120例を対象にその有用性を検証した。術中に摘出した腫瘍組織から迅速にDNAを抽出・解析し、IDH1 R132HおよびTERTプロモーター(C228T/C250T)変異の有無を評価した。

感度・特異度98%以上を実現、25分以内で結果が得られ術中診断ツールとして有用性示す

迅速遺伝子解析結果を術後に行われたサンガーシークエンスの結果と比較したところ、IDH1 R132H変異の検出では感度98.5%、特異度98.2%、TERTプロモーター変異に関しては感度・特異度ともに100%という高い診断精度を得ることができた。また術後に得られた病理診断とも極めて高い一致率を示し、術中診断ツールとしての信頼性が示された。1検体あたりの解析所要時間は検体採取からDNA抽出までは平均7.57分、DNA抽出後の解析時間はIDH1で14.29分、TERTプロモーターで17.15分であり、いずれも25分以内に結果が得られ、手術中に結果が得られることから手術の方針決定へ活用できることが確認された。

複数部位の遺伝子変異解析により術中の腫瘍境界同定が可能、摘出範囲最適化に寄与

加えて、同一腫瘍内の複数部位から腫瘍組織を採取し、それぞれの部位における遺伝子変異の有無を評価することで、腫瘍と正常組織の境界を術中に同定する試みも行った。特にIDH1変異を有する腫瘍では、IDH1変異の有無で腫瘍細胞と正常細胞を鑑別することができるため、IDH1変異が消失すれば腫瘍境界部をこえた可能性が高く、実際に病理診断でも整合する結果が得られた。迅速に分子異常を同定することで、分子マーカーに基づく腫瘍の摘出範囲の最適化に寄与するアプローチと考えられる。また、今回の研究で施行している方法で抽出したDNAは全ゲノム解析、DNAメチル化解析など他の分子解析にも使用可能であることが確認できた。

より詳細で簡便な術中分子診断を目指す

「今後は、検出可能な遺伝子マーカーの拡充とさらなる精度の向上を図るとともに、今回の技術を応用して複数の遺伝子変異を同時に解析できるマルチ遺伝子パネルの開発を進めていく。より詳細かつ簡便な術中分子診断の実現を目指す」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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