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ADHD発症、母親のストレスによる胎児の亜鉛欠乏・IL-6上昇が関与-NCNPほか

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2025年09月03日 AM09:20

IL-6上昇が報告されるADHD、亜鉛欠乏との関連が示唆されるが詳細なメカニズムは未解明

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は8月27日、周産期の母親の心理的ストレスが胎児における血中の亜鉛レベルの低下を引き起こし、その結果として炎症性サイトカインであるIL-6が上昇し、小児期のADHD(注意欠如・多動症)症状の発現に関与している可能性を明らかにしたと発表した。今回の研究は、同センター知的・発達障害研究部の高橋長秀部長、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターの土屋賢治特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「npj Mental Health Research」に掲載されている。


画像はリリースより
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ADHDは、約5%の子どもに認められる神経発達症であり、注意力の持続、多動や衝動のコントロールが難しいという特徴が見られる。そのはじまりには遺伝的要因が強く影響する一方、出生前後の環境も影響していることが示唆されてきた。

これまでに、未治療のADHD児の血液中では炎症性サイトカインであるIL-6が上昇していることが報告されており、ADHDと炎症反応との関連が注目されている。一方、亜鉛は免疫調整や脳機能の発達に関与する必須微量元素であり、亜鉛の欠乏はIL-6の発現を促進することが知られている。実際に、ADHDの子どもを対象にして、亜鉛を補充するという小規模な介入試験が行われ、ADHD症状が改善したという研究も報告されている。さらに、周産期の母親のうつ状態が、亜鉛の摂取・吸収不足や、胎盤機能の変化を介して、胎児への栄養供給(特に亜鉛)に影響する可能性が指摘されている。

しかし、これらの観察研究の多くは、因果関係を示すものではなく、亜鉛とADHD、あるいは炎症マーカーをつなぐ遺伝的・生物学的メカニズムの検討は不足していた。このため、今回の研究では、出生コホートによる長期的な追跡データ解析、血液マーカーの解析、国際共同データを用いたゲノム解析を統合して検討を行った。

726人母子コホート解析、母親のストレスが胎児の亜鉛低下を介し発症につながると判明

今回の研究ではまず、浜松母子出生コホートによる出生コホート解析を実施した。726人の母親と子どもについて、母親の周産期ストレス(EPDSスコア)、出生直後の臍帯血中の亜鉛濃度・IL-6を測定し、8~9歳時点でのADHD症状との関連を調べた。その結果、母親の周産期ストレス(EPDSスコア)が高いと、出生時の亜鉛が低下し、IL-6が上昇することを示唆するデータが得られた。この出生時のIL-6の濃度は、8~9歳時点でのADHD症状の強さと関連していた。

4万人の国際遺伝データから、ADHDと亜鉛濃度に双方向の遺伝的因果関係を発見

次に、約4万人の国際共同遺伝解析データを再解析し、ADHDと血中の亜鉛濃度には遺伝的な相関関係があることを見出した。さらに、遺伝的な因果関係を推定する手法を用いて、血中亜鉛濃度に関連する遺伝的要因はADHDの発症リスクに影響し、ADHDの発症に関連する遺伝的要因は血中亜鉛濃度に影響を与えるという双方向の因果関係を見出した。

コホート参加者の遺伝的解析実施、遺伝的リスクスコアからも因果関係を実証

コホート参加者のゲノム情報から血中の亜鉛濃度とADHDに対する遺伝的なリスクスコアを算出したところ、血中の亜鉛濃度が低くなりやすい遺伝的な変化を有するとADHD症状が強くなり、またADHDの発症と関連する遺伝的な変化を有すると血中の亜鉛濃度が低下しやすいことが明らかになった。

ADHDの予防・診断・治療につながる成果、包括的な支援体制の構築に期待

研究の結果、1)周産期のうつ状態などストレスの評価および支援は、子どもの将来のADHDの発症リスクを軽減する可能性がある、2)国内の産婦人科ガイドラインでは亜鉛の補充に関する記載はないが、欧米の産婦人科ガイドラインでは補充が薦められており、ADHDの発症に対して予防的な役割がある可能性がある、3)血中の亜鉛濃度にはADHDと遺伝的相関/関連があり、客観的バイオマーカーとして、早期のスクリーニングや介入を行う候補物質となる可能性がある、という3つの意義が示された。

今回の研究は、従来、個別に扱われがちだった「周産期メンタルヘルス」と「児の神経発達症の発症リスク」を、栄養・炎症・遺伝という統合的な観点で結びつけた初の大規模研究である。「こうした関連は、ADHDの発症に関与する複数の経路の一つであり、必ずしもADHDのすべての症状がこの経路によって説明されるわけではない。一方で、今後、さらなる追試や他国でのコホート研究での再現性が確認されることで、栄養・炎症を標的とした母子の健康を守るための包括的な支援体制の構築へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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