16歳以上は保険適用外のOFC、AYA世代のニーズや実態は不明だった
国立成育医療研究センターは8月27日、約10年間の食物経口負荷試験データを解析し、16歳以上の思春期・若年成人(AYA世代)における試験件数が5倍以上に増加していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究センターアレルギーセンターの大森茉令氏、山本貴和子氏、福家辰樹氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Clinical Experimental and allergy」に掲載されている。

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食物アレルギーは乳児期や幼少期に発症し、多くは成長とともに自然に治癒するが、ピーナッツや木の実、魚介類など一部のアレルゲンでは、思春期や若年成人になっても症状が続くことがある。また、この年代は進学や就職、親元からの独立といったライフステージの変化と重なることから、アレルギー管理において重要な時期とされている。
食物経口負荷試験(OFC:Oral Food Challenge)は、患者本人が医療機関でアレルギーがあるとされる食品を実際に少量ずつ摂取し、安全に食べられるかを評価する検査で、診断や食物摂取可能量の判断、リスク評価において極めて重要な役割を果たす。しかし、日本では16歳未満の患者を対象とした小児食物アレルギー負荷検査は保険適用となっているが、16歳以上のAYA世代の患者に対しては保険適用がない。そこで、AYA世代でのOFCのニーズや実態を明らかにすることを目的に解析した。
AYA世代へのOFC実施率、2023年には2014年に比べ5倍以上増加
研究では、当センターで2013~2023年にかけて実施された1万3,479件のOFCデータを解析した。そのうち思春期・若年成人(16歳以上)に対して行われたOFCは349件(2.6%)であり、2023年には、OFCを実施した全体のうち4.2%が16歳以上のAYA世代であり、2014年の0.8%から5倍以上に増加している。
AYA世代は小児と比べ複数の食物アレルギー割合高、アナフィラキシー既往多
また、思春期・若年成人の患者では、小児患者と比較して「複数の食物アレルギーを有する割合が高い(75.1% vs. 62.3%)」「経口免疫療法(OIT)の受療歴が多い(58.5% vs. 50.9%)」「アナフィラキシーの既往が多い(27.8% vs. 10.9%)」という傾向が見られた。
陽性反応(症状が出た割合)は小児の方が高かったものの、同研究ではAYA世代の患者が過去にアナフィラキシーを経験し、不安を抱えていることへの心理的安全性に配慮し、無理のない微量や低用量から開始する個別化された方法を採用しており、それが思春期・若年成人の陽性率低下に影響している可能性があるとしている。
OFCはアレルギーの評価だけでなく、食生活の自由やQOL向上にも寄与する可能性
AYA世代では、複数の食物アレルギーやアナフィラキシーの既往を持つ患者が多く、経口免疫療法後の耐性獲得の確認など、正確なアレルギー評価が求められる。OFCはその診断と管理に不可欠な検査であり、成長し、ライフステージが変化した患者自身の食生活の自由や生活の質(QOL)の向上にも大きく寄与するものである。
食物アレルギー医療の充実に向け、OFC保険適用を16歳以上に拡大することが重要
しかし、現在の診療報酬制度では、OFCは16歳未満の小児にのみ保険適用とされており、AYA世代への実施は医療機関側の自主的な対応に委ねられている。この制度上の制約が、AYA世代に必要な医療を適切に提供する上で大きな障壁となっている可能性が示唆された。
「本研究成果は、AYA世代におけるOFCの実施ニーズが明らかに高まっていることを示しており、今後の食物アレルギー医療の充実に向けて、OFCの保険適用範囲を16歳以上にも拡大することが強く求められる。当センターでは、科学的根拠に基づく診療体制の整備を進めるとともに、今後も政策提言を通じて、思春期・若年成人へのアレルギー診療の質の向上に貢献していく」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース


