医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 入院した熱中症患者の生命予後を高精度で予測するAIモデルの開発に成功-順大

入院した熱中症患者の生命予後を高精度で予測するAIモデルの開発に成功-順大

読了時間:約 2分59秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年05月28日 AM11:45

個々の熱中症患者の状態に応じて適切な治療法を即座に決定することは困難

順天堂大学は5月27日、日本救急医学会による「熱中症患者の医学情報等に関する疫学調査(Heatstroke Study)」のデータベースに、AIの機械学習手法を適用し、入院した熱中症患者の生命予後を高精度で予測するモデルの開発に成功したと発表した。この研究は、同大医学部附属浦安病院救急診療科の平野洋平准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

熱中症の発生は依然として非常に多く、国内では毎年約30万人の健康を脅かしている。また、熱による健康被害を受けやすい高齢者が増加していることで、命に関わる重症熱中症の発生も増加している。そのため、熱中症に対する質の高い治療が求められている。熱中症の治療で最も重要となるのは、迅速かつ効果的な冷却だ。重症患者には、血管内冷却装置や体外循環補助装置など、より侵襲的な方法が選択される。しかし、個々の患者の状態に応じて適切な治療法を即座に決定することは容易ではない。

熱中症に対する臨床的な予後を予測するツールがあれば、これらの治療法を判断する際に役立つと考えられる。さらに、予後予測モデルを利用することで、熱中症に対するケアの質を、診療後に振り返って評価することも可能となる。近年、機械学習を用いた予後予測ツールは、従来の予測手法よりも優れた結果を示すことが多く、医療現場で広く開発・応用されている。そこで研究グループは今回、機械学習を用いた熱中症の予後予測モデルの開発に取り組んだ。

2,393症例を対象に、多種類の機械学習モデルで検証

研究では、日本救急医学会による「熱中症患者の医学情報等に関する疫学調査(Heatstroke Study)」のデータベースのうち、2014年と2017~2020年の計5年間分のデータを使用した(2015年と2016年のデータは存在しない)。さらに、熱中症症例の中でも入院が必要だった症例のみを抽出。そこから来院時にすでに心停止となっていた症例を除いた結果、2,393例が抽出された。このデータを「機械に学習させ、最適な予測モデルを作成するために使用するトレーニングデータ(1,516例、2014年と2017~2019年のデータ)」と「開発された機械学習モデルを実際に検証するために使用するテストデータ(877例、2020年のデータ)」に分類した。

予測する対象は、入院中の死亡と設定。予測に使用する情報としては、年齢や性別などの患者情報、来院時の意識状態や血圧、脈拍などのバイタルサインの情報、および来院後に採取された血液検査結果など合わせて計24の情報を使用した。最適な機械学習モデルを模索するために、ロジスティック回帰、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、XGBoostという多種類のモデルでの検討を行った。

高精度での予測に成功、来院時の意識障害や肝機能障害が予後不良予測の重要因子と判明

その結果、分類評価指標としてよく用いられるAUROC(ROC曲線下面積)とAUPR(PR曲線下面積)による評価では、検証されたすべての機械学習モデルにおいて、高精度で入院中の死亡の予測に成功。特に、同研究のような予測結果のバランスが偏っているデータでの評価指標としてよく使用されるAUPR(数値が高いほど良い精度)では、ロジスティック回帰で0.415、サポートベクターマシンで0.395、ランダムフォレストで0.426、XGBoostで0.528の精度で予測できたという。

これは、患者の重症度評価に一般的に使用されるAPACHE-IIスコアと呼ばれる指標のAUPR0.287を統計学的に有意に凌駕していた。さらに、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、XGBoostモデルの開発に寄与した予測因子の重要度の比較検討を行い、来院時の体温よりも来院時の意識状態や肝障害マーカーの上昇が予後予測に重要であることを見出した。これらの結果から、熱中症入院患者において、初の機械学習を用いた高精度な予後予測モデルの開発に成功した。

熱中症診療の発展への貢献に期待、社会的対策も重要

今回の研究により、入院を要する熱中症症例の予後予測が、AIによって一定の根拠と精度で可能になることが示された。同機械学習モデルは、熱中症治療選択のサポートや熱中症診療の質の評価など、熱中症診療の発展に利用されることが期待される。

また、熱中症患者の予後不良因子として、高体温のみならず、意識障害や肝機能の障害の進展が重要な因子であることが明らかになったことから、このような臨床状態になる以前に、高体温環境下での熱中症の予防対策を徹底すること、さらには早期の治療介入の重要性が示唆された。「これらの研究成果をもとに、社会的問題となっている熱中症へのより強固な社会的対策が望まれる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 住宅の種類と死亡リスクの関連を検証、低リスクは「持ち家」「公的賃貸」-千葉大ほか
  • 高齢者の介護費用、近所に生鮮食料品店があると月1,000円以上低い-千葉大
  • 膵がん血液バイオマーカー「APOA2アイソフォームズ」保険収載-日医大ほか
  • わずか「40秒」の高強度間欠的運動で、酸素消費量と大腿部の筋活動が増大-早大
  • 新規胃がん発生メカニズム解明、バナナ成分を含む治療薬開発の可能性-東大病院ほか