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英国と南アフリカで増加の新型コロナ変異株についての速報-感染研

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2020年12月29日 PM01:30

感染性の増加が懸念される新規変異株についての第3報

国立感染症研究所は12月28日、感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株「」と「」についての第3報(2020年12月28日14時時点)を発表した。これは、迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

英国で増加の「VOC-202012/01」、免疫回避により加速度的変異蓄積の可能性

英国では、過去数週間にわたって、ロンドンを含むイングランド南東部で新型コロナウイルス感染症()症例の急速な増加に直面しており、疫学的およびウイルス学的調査を強化してきた。そして、イングランド南東部で増加しているCOVID-19症例の多くが、新しい単一の系統に属していることが確認された。

Nextstrain clade 20B、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属するこの新規変異株は、Variant Under Investigation (VUI)-202012/01と命名されていたが、12月18日、リスクアセスメントの結果、Variant of Concern (VOC)- 202012/01に変更となった。

VOC-202012/01は、23か所の変異を有し、スパイクタンパク質の変異(deletion 69-70、deletion144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される。スパイクタンパク質の多くの変異数、英国でのウイルスゲノム解析が行われる割合(5~10%)、その他の新規変異株の特徴からは、この株は免疫抑制者等において1人の患者での長期的な感染で、免疫回避による変異の蓄積が加速度的に起こった結果である仮説が考えられる。一方で、ヒトから動物、動物からヒトに感染し変異した可能性やウイルスゲノム解析が(あまり)行われていない国において流行する中で、探知されないまま、徐々に変異が蓄積した可能性は否定的である。

VOC-202012/01は感染性の増加が示唆されるが、重篤な症状との関連は不明

英国でのウイルスゲノム解析や疫学データを基にした複数のモデリング解析では、VOC-202012/01は今までの流行株よりも感染性が高い(再生産数(R)を0.4以上増加させ、伝播のしやすさ(transmissibility)を最大70%程度増加すると推定)ことが示唆され、PCR法による核酸検査やウイルスゲノム解析から推定されるウイルス量は、増加していることが示唆されている。

また、VOC-202012/01の変異の1つ、S遺伝子deletion 69-70により、S遺伝子を検出するPCRによっては、結果が偽陰性となるspike gene target failure(SGTF)を認めている。英国の3か所の検査施設において、SGTFを認める検体が急増するとともに、10月12日の週にはSGTFを認める変異株のうちB.1.1.7に属するものが5%であったが、11月30日にはこの頻度が96%と急増していた。次に記載の南アフリカの新規変異株(501Y.V2)は、S遺伝子deletion 69-70を認めていないため、VOC-202012/01と同様の方法で検知できるのか現時点では不明である。

現時点では、VOC-202012/01に関連した重症化を示唆するデータは認めないが、症例の大部分が重症化の可能性が低い60歳未満の人々(地域で流行している年齢層を反映)であり、評価に注意が必要である。また、現時点では、VOC-202012/01のワクチンの有効性への影響は不明である。

VOC-202012/01は、デンマーク、オランダ、ベルギー、オーストラリア、アイスランド、イタリア、ドイツ、フランス、アイルランド、シンガポール、香港、スウェーデン、イスラエル、スイス、レバノン、カナダ、スペイン、ヨルダンで渡航者等からの検出や、遺伝子情報が報告されている(一部メディア情報含む)。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は12月20日公表のレポートで、「EUのほとんどの国では、ウイルスゲノム解析が行われている例が英国よりも少ないため(英国では全症例の約5~10%で実施)、この新規変異株がすでにEU内で流行している可能性は否定できない」としている。

南アフリカで増加の「501Y.V2」、感染性の増加や重篤な症状との関連は不明

12月18日、南アフリカ保健省はCOVID-19患者の急増と新規変異株(501Y.V2と命名)の割合が80~90%に増加していることを報告した。501Y.V2は、レセプター結合部位として重要な3か所(K417N, E484K, N501Y)の変異を含む、スパイクタンパク質の8か所の変異で定義される。英国で検出されたVOC-202012/01と同様のN501Yを認めるが、系統としては進化的関連を認めない(Nextstrain clade 20C、GISAID clade GH、B.1.351系統に属する)。感染性が増加している可能性が示唆されているが、精査が必要である。より重篤な症状を引き起こす可能性やワクチンの効果への影響を示唆する証拠はない。12月23日、英国は、南アフリカからの渡航者との接触歴がある501Y.V2の2例を報告した。

英国は、12月20日から今後数週間、南東イングランドで「Tier 4」レベル(外出制限等を含む最も強い措置)となることを発表し、さらに12月26日から、Tier4の地域を拡大している。英国以外の各国は英国からの一時的な入国制限を検討または実施している。

日本では複数人でVOC-202012/01を検出、水際対策と検疫を強化

日本は、英国に対しては12月24日0時より、南アフリカ共和国については12月26日0時より水際対策を強化している。厚生労働省は、本邦入国前14日以内に英国および南アフリカ共和国に滞在歴がある入国者の健康フォローアップ及びSARS-CoV-2 陽性と判定された者の情報および検体送付の徹底を求めている。当面の間、英国及び南アフリカ共和国に滞在歴のある入国者については、無症状の場合も含め新型コロナウイルス感染症患者および疑似症患者については、感染症法に基づく入院措置を行うこととし、退院基準も別に定めている。また、12月28日から2021年1月末まで、防疫措置を確約できる受入企業・団体がいることを条件とした新規入国の許可について、全ての国・地域からの新規入国を一時停止等することとした。

日本では、ウイルスの遺伝子解析は国内症例全体の1割程度について行われてきた。(2020年12月27日現在の国内のゲノム確定数は1万4,711検体、空港検疫のゲノム確定数は424 検体)。VOC-202012/01および501Y.V2の両者に共通し、感染性の変化に最も影響を与えうると考えられるN501Y変異を認める株は、日本において見つかっていなかったが、12月25日、英国からの帰国者の空港検疫の検査陽性者からVOC-202012/01が検出された。当該者は管理下に置かれている。また、12月26日、英国渡航歴のある者とこの濃厚接触者からVOC-202012/01が検出された。当該患者および濃厚接触者の患者は入院中である。12月27日にも、英国渡航歴のある者1人からVOC-202012/01が検出され、当該患者は入院中である。

現時点まで変異株が英国・南アフリカと疫学的関連のない症例からは国内で検出されていないことは、国内に変異株が存在しなかったこと、および現在存在していないことを保証するものではない。また、、南アフリカ共和国から変異株感染者が入国するリスクがある。国内でも英国との渡航歴に関連した症例が確認されたが、管理下にある。両国については、新規入国の拒否や14日間待機緩和措置を認めないなどの水際対策と検疫の強化が行われており、新たに変異株感染者が入国し、国内で二次感染させるリスクはとても低い。

英国・南アフリカ以外での変異株のまん延状況は不明である。いくつかの国からすでに変異株が報告されているが、変異株が検出されていないことが、当該国に変異株が存在しないことを保証するものではない。英国・南アフリカへの渡航歴に関連が明らかではない症例で変異株が確認された国・地域(例:カナダ)については、変異株感染者が渡航してくるリスクがあるが、定量的評価は困難だ。3~4月の感染拡大以後、海外からの持ち込み株が国内で持続的に拡大した事例は確認されていないが、従来株と比較して感染性が高い可能性に鑑みて、国内に持ち込まれた場合に現状より急速に拡大するリスクに留意が必要。なお、国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法は、これまでと同様に使用可能である。

感染拡大と変異株に関連した管理体制を強化し、情報収集の継続を推奨

これらの新規変異株に対する日本の対応について、国立感染症研究所は以下を推奨している。

(1)変異株の監視体制の強化
・特に、最近2週間の海外渡航歴ありの者に対するPCR検査等の実施、検体提出、ゲノム分析の実施。
<監視体制の優先順位の考え方>
変異株が検出されていないことは、当該地域内に変異株が存在しないことを保証するものではないが、検体提出、ゲノム分析を行う対象となる者の2週間以内の海外渡航先については、下記の優先順位を考慮する。
1. 感染拡大とVOC-202012/01または501Y.V2の増加に関連性が認められる国・地域 (英国、
2. VOC-202012/01または501Y.V2が1の国・地域への渡航歴に関連が明らかではない症例で検出されている国・地域
3. VOC-202012/01または501Y.V2が、1の国・地域への渡航歴に関連が明らかな症例でのみ検出されている国・地域または報告されていない地域
・上記1の国・地域について、全ての入国者のPCR検査等が陽性時にはゲノム分析を行うとともに、入国者の健康観察を実施。指定施設での停留(健康観察)や航空便の運行停止も検討。
・上記1の国・地域からの入国者の陽性例については、症状等の有無に関わらず入院等により他者との接触機会を避ける。
・上記2の国・地域については、全ての入国者のPCR検査等と陽性時にはゲノム分析を行うことともに、発生数の著しい拡大が認められる場合には、上記1と同様の対応を検討。
・上記3の国・地域からの入国者や、渡航歴のない国内例についても、陽性者に上記1の地域に2週間以内の渡航歴がある者との接触歴を認める場合には同様に検体提出、ゲノム分析を実施。
・国内については、特に11月から12月の症例について、地域等の偏りなく検体提出とゲノム分析を実施。

(2)変異株への感染者が見つかった場合には、感染源、濃厚接触者の追跡と管理、臨床経過等を含めた積極的疫学調査を行う。(QLifePro編集部)

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