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進行性ミオクローヌスてんかん、SEMA6Bの短縮型変異で発症-横浜市大ほか

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2020年03月16日 PM12:00

発達性およびてんかん性脳症は、遺伝子変異が多岐にわたり半数は原因不明

横浜市立大学は3月13日、進行性ミオクローヌスてんかんの原因となるSEMA6B遺伝子の変異を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科遺伝学の濵中耕平研究員、今川英里研究員、輿水江里子研究員、松本直通教授らの研究グループが、国立病院機構西新潟中央病院の遠山潤医師、自治医科大学小児科学講座の山形崇倫教授、宮内彰彦医師、イスラエルのThe Genetics Institute Rambam Health Care CampusのNina Ekhilevitch医師、マレーシアのKuala Lumpur病院のAhmad Rithauddin Mohamed医師、Gaik-Siew Ch’ng医師との共同研究として行ったもの。研究成果は、「The American Journal of Human Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより

(developmental and epileptic encephalopathy)は、てんかん、脳波の異常、発達の遅れや退行などの神経発達の障害を示す疾患群。疾患に関連する変異を有する遺伝子群が多岐にわたり、診断率は約40~50%程度だ。症例ごとの病態メカニズムに合わせた医学的管理や治療には、変異遺伝子の特定が重要で、半数を占める原因が未解明の症例における変異遺伝子の特定も、極めて重要とされている。

SEMA6Bタンパク質の短縮型変異で進行性ミオクローヌスてんかんが発症

今回、研究グループは、発達性およびてんかん性脳症を呈する患者346例の全エクソームシーケンシングの解析データを用いて、遺伝子変異を探索。その結果、2例からSEMA6B遺伝子にタンパク質短縮型の新生突然変異を検出した。同一の遺伝子に複数の患者で新生突然変異が検出されたのはSEMA6B遺伝子のみだった。そこで、SEMA6B遺伝子に着目して、同疾患やその類縁疾患を呈する別の患者5,699例の全エクソームシーケンシングの解析データで変異を探索したところ、3例でSEMA6B遺伝子にタンパク質短縮型の新生突然変異を検出した。SEMA6B遺伝子は、細胞間の情報伝達に関わるタンパク質である膜貫通型セマフォリンの1つをコードしており、中枢神経系の発達に関与していると考えられている。

この型の新生突然変異がSEMA6B遺伝子に起きる理論的な確率から考えると、6,045例(346例+5,699例)のうち5例は統計的に有意に多いと考えられる(p=1.9×10-13、有意水準2.5×10-6)。興味深いことに、これらの遺伝子変異は、全てナンセンス変異依存性メッセンジャーRNA分解(nonsense-mediated mRNA decay、NMD)を受けない最終エクソンに存在した。これらの遺伝子変異はSEMA6Bタンパク質の細胞内領域を翻訳する領域の途中で未成熟終止コドンを作るため、細胞内領域が欠損したSEMA6Bタンパク質が産生されると考えられた。一方で、一般集団の遺伝子変異データベースに登録されているタンパク質短縮型変異は、NMDを受ける領域に存在した。そのため、NMDによりRNAの分解が起こり翻訳されるSEMA6Bタンパク質量が減ることでは、疾患を引き起こさないと考えられた。これらのことから、SEMA6Bタンパク質の細胞内領域をコードするC末端が欠損した短縮型のSEMA6Bタンパク質が産生されることが、疾患の原因である可能性が示唆された。これらの遺伝子変異を有する症例は、発達の退行、てんかん、ミオクローヌス、錐体路徴候、小脳失調などを呈し、発達性およびてんかん性脳症の中でも特に進行性ミオクローヌスてんかんに分類される。

疾患モデルのゼブラフィッシュで、ヒトの病態を再現

さらにモデル実験動物のゼブラフィッシュを用いて、CRISPR/Cas9システムを利用したsema6b遺伝子の変異体を作製して解析。その結果、sema6b遺伝子の細胞内領域が欠損したモザイク変異体の中枢神経において、神経細胞の減少が観察された。定量のために中脳の視蓋領域を計測したところ、その差は統計的に有意であることが明らかになった。また、ペンチレンテトラゾール(PTZ)というけいれんを誘発する化合物を使用した実験を行い、行動をモニタリングしたところ、NMDを受けずタンパク質が壊されないsema6bモザイク変異体では、行動量の増加、体を横倒しにした異常遊泳、不随意運動のようなヒトのミオクローヌスてんかんに類似した行動が顕著に現れることが明らかになり、ヒトの病態が再現された。

今回の研究により、SEMA6Bの最終エクソンにおけるタンパク質短縮型変異が、NMDを受けずに短縮型タンパク質を産生し、この異常タンパク質が優性阻害もしくは機能獲得のメカニズムにより進行性ミオクローヌスてんかんを起こすことが示唆された。研究グループは、「進行性ミオクローヌスてんかんの原因となる新たな遺伝子変異が同定されたことで、本疾患の分子診断や病態メカニズムの解明、医学的管理法や治療法の開発に寄与できることが期待される」と、述べている。

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