医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 朝方の咀嚼運動の強化で、食後の血糖値が速やかに低下-北大ほか

朝方の咀嚼運動の強化で、食後の血糖値が速やかに低下-北大ほか

読了時間:約 3分1秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年11月26日 AM11:30

食後の血糖値は朝に40回咀嚼を行った条件で最も低く、食後30分のインスリン分泌量の上昇に関与

北海道大学は11月25日、食後の血糖値は朝に40回咀嚼を行った条件で最も低くなり、食後30分のインスリン分泌量の上昇に関与することを発見したと発表した。この研究は、同大学大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授と札幌国際大学スポーツ指導学科の大塚吉則教授らの研究グループによるもの。研究成果は「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」に掲載された。

食事により血糖値が上昇すると血糖調整ホルモンのインスリン分泌が促進され、健康な人では、食事により上昇した血糖値が食後2~3時間で食事前の数値にまで低下する。よく噛んで食べることは、日本国内において、家庭内でも簡単に実行できる健康法として知られており、よく噛むこと、つまり咀嚼には、摂食調節に関わるさまざまな健康効果があることが科学的に明らかになってきている。咀嚼運動の強化は、摂食量、食欲のコントロール、食後のエネルギー代謝量の増加、糖代謝能に影響することが報告されている。また、インスリンによる血糖値の調節作用には1日の中で異なり、朝に比べ夜間にはインスリンによる血糖値の低下作用が低下することが報告されている。しかし、咀嚼運動による糖代謝能の改善に時刻による違いがあるかについては不明だった。

今回研究グループは、咀嚼運動が食後の血糖値およびインスリン濃度に与える影響を、朝と夜で比較する実験を実施し、咀嚼運動が糖代謝能に与える影響に概日リズムが存在するか否かを検証した。


画像はリリースより

血糖値・血漿インスリン濃度などを測定、咀嚼回数の違いが時刻により異なるかを比較

同研究では、健康な成人男性9名を対象に実験を実施。被験者には、実験参加に先立ち規則正しい生活(23~0時就寝、7~8時起床)を1~2週間送るように指示し、その後、「75gグルコース溶液を用いた経口糖負荷試験」「試験食(白米200g)を1口当たり10回咀嚼する試験」「試験食(白米200g)を1口当たり40回咀嚼する試験」を実施した。各試験は、1週間の間隔をおいて実施し、咀嚼回数の違いを調べる実験は、ランダムに実験順序を決定。経口糖負荷試験、試験食の摂取実験は、1日2回(朝8時と夜20時)行った。

実験前日、被験者には夜21時までに実験者側が用意した夕食をとり、夕食摂取後は水以外の摂取を控えるよう指示。実験当日は、朝8時に北海道大学大学院教育学研究院内の実験室に来室してもらい、上腕静脈に採血のための留置カテーテルを挿入し、糖負荷前の採血を実施。75gグルコース溶液あるいは試験食を摂取し、摂取後30分間隔で120分まで採血を行った。朝の試験終了時に、実験者側で用意した軽食を摂取後、夜の試験開始まで水以外の摂取は控え、安静に過ごしてもらった。被験者には、夜20時に再び実験室に来室してもらい、朝の試験と同様の手順で実験を行った。

同研究では、血糖値、血漿インスリン濃度、血漿アミラーゼ活性、血漿GLP1濃度を測定し、咀嚼回数の違いが時刻により異なるかを比較。また、血糖値とインスリン値の上昇曲線下面積(incremental area under the curve:iAUC)、試験食摂取後30分の血中インスリン増加量を血糖値の増加量で除した値を食後のインスリン追加分泌の初期分泌能の指標であるInsulinogenic Indexを実験条件間で比較した。

・2型糖尿病の栄養食事指導法への応用に期待

実験の結果、75g経口糖負荷試験を行った際の血糖値は、これまでに報告されているように、朝8時と夜20時では異なり、血糖値は75gグルコース溶液を摂取した60分後以降、夜の試験では朝の試験に比較して高い値となり、血漿インスリン濃度は朝の30分後の値が夜の試験時に比べて有意に増加していた。

白米を1口あたり10回咀嚼する条件と40回咀嚼する条件で試験食を朝と夜に摂取させた4条件(朝10回、朝40回、夜10回、夜40回)間で血糖値と血漿インスリン濃度を比較したところ、朝に40回咀嚼した条件では他の3条件に比べ食後60分、90分および食後の総血糖値が有意に低い値となり、食後30分の血漿インスリン濃度が他の条件に比べて増加していた。Insulinogenic Indexにおいても、朝40回咀嚼した条件では他の3条件に比べて有意に高い値を示していたという。これらの結果より、高炭水化物摂取後の糖代謝能は朝方の咀嚼運動の強化によって、インスリンの初期分泌能が上昇することで食後の血糖値を速やかに低下させると結論づけた。

肥満者や糖尿病予備軍、2型糖尿病患者では、インスリンの初期分泌が低下し、遅延することが知られている。朝食時の咀嚼運動の強化は、食後の糖代謝能を改善させ、肥満や2型糖尿病の発症・症状の改善を目的とした栄養食事指導法への応用が期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか