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薬の主要な作用標的GPCRが細胞に情報伝達する仕組みを解明、新薬開発に期待-東北大

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2019年06月05日 PM12:45

困難だったGPCRへの個々のGタンパク質の結合測定を可能に

東北大学は5月30日、薬の主要な作用標的である細胞表面に存在するタンパク質群の情報伝達様式を解明したと発表した。この研究は、同大学大学院薬学研究科の井上飛鳥准教授、青木淳賢教授とドイツのハイデルベルク大学のRussell博士らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Cell」のオンライン版に日本時間で5月31日に掲載された。


画像はリリースより

ヒトの体にはGタンパク質共役型受容体()と呼ばれるタンパク質群が約280種類存在し、ホルモンに応答する情報伝達センサーとして個々の細胞に備わっている。GPCRが特定のホルモン様分子(リガンド)と結合すると、Gタンパク質という細胞内タンパク質に情報を受け渡す。Gタンパク質は3量体で、Gs、Gi、Gq、G12の4グループに分類される。Gタンパク質の情報伝達パターンは、GPCRごとに固有で、このパターンに従い細胞の振る舞いが決まる。また、GPCRの機能が異常になると、数多くの疾患の原因となることが知られており、GPCRに結合しその機能を元に戻す作用を有する分子は疾患治療薬となる。実際に、GPCRに作用する薬は市販薬の約3割存在する。全てのGPCRについて、ホルモン様分子が結合した際に生じるGタンパク質の結合パターンを明らかにできれば、疾患機序の分子レベルでの解明や新薬の開発につながる。

GPCRにホルモン様分子が結合して活性化すると、構造変化によりGタンパク質が結合できるようになる。GPCRと結合したGタンパク質は、細胞内に存在する核酸のGTPを取り込み、このGTP結合型Gタンパク質が別のタンパク質と結合することで細胞内の情報伝達が進行する。GPCRに結合するGタンパク質を調べるには、その結合を直接測定するのが困難なため、通常は下流の細胞応答を調べる。しかし、異なる細胞応答現象は比較できないため、GPCRにどのGタンパク質がどの程度結合するかを測定することは困難だった。加えて、4つのGタンパク質グループにはそれぞれ複数の種類が存在するが、1つのグループは似通った細胞応答を引き起こすため、個々のGタンパク質の結合を測定することはできなかった。

GPCRに作用する新たな疾患治療薬の開発に貢献すると期待

今回研究グループは、これまでに自ら開発したGPCR活性化の測定法を改良することで、GPCRと個別のGタンパク質との結合を測定する方法を確立するとともに、多種類のGPCRについて個別の結合を測定することに成功し、GPCRに作用する創薬に有用な情報を構築した。

まず、以前開発したTGFαタンパク質切断を利用したGPCR活性化測定手法を、Gタンパク質欠損細胞と人工改変したキメラGタンパク質と組み合わせて実施することで、ホルモン様分子がGPCRに結合した際のキメラGタンパク質との結合を個々に測定する技術を構築した。これにより、細胞に導入したキメラGタンパク質のみがGPCRと結合しTGFα切断を引き起こす状況を作り出すことで、GPCRとGタンパク質の結合を特異的に測定することが可能となり、148種類のGPCRについて全てのキメラGタンパク質との結合を測定した。この結果、既存の手法では成し得なかった、詳細なGPCRとGタンパク質の相互作用パターンが明らかとなった。特に、G12のグループに関して多くのGPCRが結合することがわかったという。

次に、実験的に得られたGPCRとGタンパク質の結合パターンから、Gタンパク質の選択性に関わるGPCRのアミノ酸配列を明らかにするため、生物情報学的手法を用いた解析を実施。その結果、細胞膜貫通領域や細胞内ループに、各Gタンパク質の識別に関与するアミノ酸残基が存在することが判明した。意外なことに、Gタンパク質の選択性に関与するGPCRのアミノ酸残基の多くは、Gタンパク質との相互作用面に存在するのではなく、この面の構造を変化させる蝶番(ちょうつがい)に相当する、やや離れた位置(細胞外のリガンド結合の近く)に存在することがわかった。

続いて、判明したGタンパク質の選択性に関与するアミノ酸配列の情報を基に、機械学習を用いてGタンパク質結合を予測するアルゴリズムを開発した。公開データベース(IUPHAR/Guide to PHARMACOLOGY)に登録されたGタンパク質との結合情報を指標に、今回のアルゴリズムと既存のアルゴリズムを比較したところ、4種類のGタンパク質グループのいずれについても、今回のアルゴリズムの方が、既存よりも同等かより精度が高くGタンパク質結合を予測できることが確認された。さらに、このアルゴリズムを用いて、結合分子が未同定、情報伝達が不明の61種類のGPCRにつきGタンパク質結合スコアを算出すると、よく解析されているGPCRと比べてG12と結合する割合が高いと予測された。

最後に、予測アルゴリズムを用いてGタンパク質の選択性を改変した。そのモデルとして、デザイナーGPCRと呼ばれる受容体を用いた。デザイナーGPCRは、生体内のホルモン様分子には応答せず、特定の合成分子のみにより機能がオンとなる人工改変受容体。予測アルゴリズムを用いて、Gqと結合するデザイナーGPCR(M3D)を改変することで、G12と結合するデザイナーGPCRの作製に成功した。今回、「細胞の主要な情報センサーであるGPCRの情報伝達様式の基本原理を解明したことで、分子レベルでの病気の理解や新薬開発の効率化に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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