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胎仔期の抗てんかん薬(VPA)曝露で海馬に起こる障害の改善法を解明-九大

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2018年04月06日 PM03:30

胎生期VPA曝露と出生後のけいれんの起こりやすさとの関連

九州大学は4月3日、脳の発生が盛んに進んでいる胎仔期に一時的な抗てんかん薬のひとつであるバルプロ酸ナトリウム(Valproic acid:VPA)の曝露を受けた成体マウスは、脳領域のうち、記憶の形成や維持に関わる海馬における新生ニューロンの移動が障害され、けいれんが起こりやすくなること、さらに自発的運動によってそれらの障害が改善されることを世界に先駆けて発見したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究院の中島欽一教授、加藤聖子教授、松田泰斗特任助教と医学系学府博士課程4年の坂井淳彦氏らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術雑誌「Proceeding of the National Academy of Sciences」に掲載されている。


画像はリリースより

てんかんは脳の神経細胞(ニューロン)が過剰興奮することによってけいれんなどの発作を繰り返す神経疾患で、その罹患率は全年齢層において約1%とされており、生殖年齢の女性もその例外ではない。てんかんを合併した妊婦においては、てんかん発作の予防を目的に抗てんかん薬を継続することが原則であり、抗てんかん薬の催奇形性に加えて、その妊娠中の投与が出生児の脳に与える長期的な影響(晩発性影響)に関する研究が盛んに行われている。その一例として、抗てんかん薬の一つであるVPAの胎生期曝露による影響が挙げられる。実際に、VPA よる治療を受けている約20%のてんかん合併妊婦が出生した子どもに自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder: ASD)や注意欠陥多動性障害(Attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)の発症リスクが増加することが報告されているが、胎生期VPA曝露と出生後のけいれんの起こりやすさ(けいれん感受性)との関連は明らかになっていなかった。

海馬での新生ニューロン移動が障害、けいれん感受性が亢進

研究グループは、妊娠12、13、14日目にVPAを投与(合計3回)したマウスと、投与していないマウスから出生した仔を成体まで飼育し、これらのマウスに対して、けいれん誘発性薬剤であるカイニン酸を少量投与した。その結果、胎仔期にVPA曝露を受けたマウスでは、VPA曝露を受けていないマウスと比べて、カイニン酸で誘発されるけいれんが重篤化しており、けいれん感受性が亢進することを発見した。

このけいれん感受性亢進のメカニズムとして、成体海馬におけるニューロン新生に着目し、研究が進められ、胎仔期にVPA曝露を受けた成体マウスの海馬では異所性ニューロン新生を認めることが明らかになった。研究者らは新生されたニューロンの配置異常のメカニズムとして、新生ニューロンの元となる神経幹/(Neural stem/progenitor cells:NS/PCs)に着目して研究。その結果、胎仔期のVPA曝露は成体海馬のNS/PCsにおいてCXC motif chemokine receptor 4(Cxcr4)の発現低下といった細胞移動に関連する遺伝子群の発現変化を引き起こすことを明らかにした。

さらに、海馬においてニューロン新生を亢進することが知られている自発的運動を胎仔期 VPA曝露マウスが行うと、けいれん感受性が低下し、異所性ニューロン新生が抑制された。さらに、自発的運動はVPA曝露によってNS/PCsにおいて撹乱されたCxcr4を含む遺伝子群の発現を概ね正常化した。加えて、胎仔期VPA曝露マウスの海馬NS/PCsにおいてCxcr4の発現を補充したところ、新生ニューロンの配置異常やけいれん感受性が改善した。

これらの研究成果は、妊婦への薬剤投与が出生児の脳機能に与える影響におけるメカニズムの解明と治療法開発の一助となることが期待される。

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