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精子異常による男性不妊は環境由来化学物質ばく露と関連-東北大

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2017年02月15日 AM11:30

生殖細胞に影響を与え、精子数減少などを引き起こすとされるPCB

東北大学は2月13日、精子異常による男性不妊と環境由来化学物質の関連性を解明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の有馬隆博教授のグループが、同研究科の仲井邦彦教授のグループと共同で行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」電子版に2月10日付けで掲載されている。


画像はリリースより

低用量の環境由来化学物質への長期ばく露は、ヒトの精子や卵子といった生殖細胞系列、および精巣や卵巣といった生殖腺に対して深刻な影響を及ぼす危険性をはらんでいる。そのため、化学物質のヒトへの影響を明らかにすることは環境保全上の重要課題であり、早急な対応が求められている。なかでも環境残留性と人体への強い有害性が問題となっているポリ塩化ビフェニル()は内分泌かく乱作用があり、PCBばく露に伴い、精子数の減少、運動率の低下など数多くの報告がある。

ヒト精子では受精時において、遺伝子の働きを制御するDNAメチル化といったエピジェネティックな修飾がダイナミックに変動する。この時期は非常に感受性が高く、環境化学物質が精子のエピジェネティクスに影響すると、その効果は受精卵まで影響を及ぼす可能性が十分にある。このエピジェネティック修飾は、生殖細胞形成過程の「細胞の記憶」として知られており、この機構の破綻は、先天性疾患に限らず乳幼児の行動・発達の異常や成人疾患にも影響を与えるという。

PCBばく露、生活習慣、精子数の低下およびメチル化異常との関係を明らかに

今回の研究では、PCBがヒト精子のエピゲノム異常に関与し、男性不妊症に影響するのではないかという仮説のもとに、ヒト不妊症患者の血中PCB濃度と精液所見およびDNAメチル化異常との関連性を、年齢、生活習慣などの交絡要因を加味して解析。その結果、血中PCB濃度は、年齢の増加とともに徐々に高くなり、精子数の低下を引き起こす可能性が示された。また、精子DNAのメチル化の異常率とも関連していることが判明。さらに、メチル化異常を示す精子を用いた場合、異常のない精子と比べ、体外受精で妊娠率が減少していることを見出したという。

これらの事実により、PCBにより影響を受けた精子のメチル化異常が、次世代の受精卵に伝達され影響を及ぼしている可能性が示唆された。この研究成果は、ヒト男性不妊症の原因と病態解明、治療法開発に役立つと期待される。また、世代を超えたエピジェネティック情報の継承を理解するための手掛かりになる可能性があると、研究グループは述べている。

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