合成化合物を上回る多様性を持ち、創薬シーズとして期待できる天然物
熊本大学は11月27日、ザクロ(Punica granatum L.)の未利用部位である葉・枝から得られる天然物PGGが、ATTRアミロイドーシスの原因となるトランスサイレチン(TTR)アミロイド線維を直接標的として分解することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター(薬学系)の首藤剛准教授、大学院生命科学研究部脳神経内科学講座の植田光晴教授、大学院薬学教育部博士後期課程の鏡明日香氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。

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人類は古来、植物・微生物・海洋生物・昆虫・鉱物などの天然資源を活用してアンメット・メディカル・ニーズの解決に取り組んできた。現在使用されている多くの医薬品が天然物に由来していることが知られており、国際的な調査では世界人口の多くが、何らかの形で天然資源を利用した伝統・補完・統合医療を利用しているとの報告もある。天然物は、多様な構造骨格のバリエーション、特徴的な官能基を備え、合成化合物を上回る化学的多様性や生物活性を示す場合がある。そのため、創薬シーズとして非常に魅力的であり、いまだ発見に至っていない有望な物質が、天然資源の中に潜在している可能性が高い。
ATTRアミロイドーシス、既存薬は線維沈着後の効果が限定的
ATTRアミロイドーシスは、TTRの異常凝集により心臓や末梢神経などにアミロイド線維が沈着し、臓器機能が徐々に損なわれる疾患である。既存の治療(TTR産生抑制や四量体安定化)は多くの患者に有効で希望をもたらしているが、主な標的は病気の早期段階であり、すでに線維が沈着した進行例では十分な効果が得られない場合がある。原因となるTTRアミロイド線維を直接分解できる手段を見出すことができれば、新たな治療戦略を切り拓くことが可能になるとともに、既存治療の補助療法としても活用できる可能性がある。
UpRod天然物バンクのスクリーニング実施、ザクロ由来PGGにアミロイド線維分解活性を発見
UpRodオリジナル天然物バンクを用いた植物エキススクリーニング(in vitro評価)により、V30M変異体TTRアミロイド線維を分解(アミロイドブレイク)するザクロ葉・枝抽出物(PGL)を見出した。活性本体として、ユニークな構造を持つ1,2,3,4,6-Penta-O-galloyl-β-D-glucose(PGG)を同定した。PGGは野生型TTR線維にも作用したが、アルツハイマー病関連のアミロイドβ(Aβ)線維には作用を示さなかったので、TTRに対する選択性が示唆された。
ガロイル基付加数がV30M変異体と野生型TTR分解活性に重要
PGGは、糖の一つであるグルコースに5つのガロイル基という官能基が結合した構造を持つ。ガロイル基の数が異なる類縁体で活性を比較したところ、付加数が多いほど、V30M変異体TTRアミロイド分解活性が高まった。また、この作用は、野生型TTRアミロイドに対しても同様に認められた。
PGG、TTRモデル線虫の寿命と健康寿命のいずれも延伸
次に、生体内(in vivo)での薬効評価として、凝集しやすいヒトTTR81-127と緑色蛍光タンパク質(EGFP)の融合体を発現させたC. elegans(線虫)モデルを用い、ブレイク活性を検証した。その結果、PGGは線虫体内に形成されたTTR凝集体を有意に減少させることがわかった。さらに、TTR凝集体の減少が個体の状態に与える影響を調べるため、研究グループが独自に開発した自動測定システムC-HAS(C. elegans Health life span Auto-monitoring System)を用いて、寿命および健康寿命を評価した。その結果、PGGはTTRモデル線虫の寿命と健康寿命のいずれも延伸させることを確認した。一方で、EGFPのみを発現する対照線虫では同様の効果は見られず、この作用がTTR凝集体のブレイク活性に依存することが示唆された。
患者組織用いたex vivo評価でも、PGGのアミロイド線維分解活性を確認
最後に、ATTRvアミロイドーシス患者の心筋由来剖検検体に含まれるアミロイド沈着物を用い、患者組織を対象としたex vivo評価を行った。PGGはこれらのアミロイド線維を断片化し、患者組織由来線維に対しても直接作用することを裏づけた。
以上より、この研究では植物由来成分のスクリーニングを通じ、ザクロ葉・枝由来のPGGがTTRアミロイド線維をブレイクする物質であることを同定し、試験管内(in vitro)・線虫(in vivo)・患者検体(ex vivo)の多様な評価系で一貫した活性を示すことを明らかにした。
既存治療を補完する新戦略として期待、持続可能な資源活用の意義も
ATTRアミロイドーシスは、遺伝性のATTRvと加齢性のATTRwtに大別される。ATTRvに対しては肝移植、siRNA製剤、四量体安定化薬などにより予後の改善が進んでいる一方、ATTRwtでは治療選択肢が限られ、四量体安定化薬の臨床応用が始まった段階にある。多くの患者は診断時点で既に高度なアミロイド沈着を呈しており、早期発見は依然として難しいのが現状である。こうした背景のもと、アミロイド線維そのものに直接作用する「アミロイドブレーカー」は、既存治療を補完しうる新たな戦略として期待される。
さらに、未利用資源であるザクロの葉・枝からPGGを見出した点は、持続可能な資源活用の観点からも意義がある。「PGGは、ATTRアミロイドーシスに対する新しい治療戦略の候補として、今後の展開が期待される」と、研究グループは述べている。
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