高齢者の自立を妨げる膝OA、全身の身体表象機能との関連は未解明
大阪公立大学は11月20日、変形性膝関節症(膝OA)の高齢者は、身体の回転動作に関するイメージ形成が困難であることが判明したと発表した。この研究は、同大大学院現代システム科学研究科の武藤拓之准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Brain Research」にオンライン掲載されている。

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日本を含む多くの国で高齢化が進む中、高齢者の自立を妨げる要因として運動器疾患が注目されている。特に膝OAは世界で6億人以上が罹患する代表的な疾患であり、痛みや可動域の制限によって生活の質を大きく損なう。これまでの研究から、膝OAは身体機能の低下をもたらすだけでなく、自己の身体に関する脳内モデルである身体表象を変調させる可能性が示唆されている。しかし、従来の研究のほとんどは、手や足などの特定の身体部位の身体表象に焦点を当てており、空間認識能力にも関わる体全体の身体表象機能との関連は十分に検討されていなかった。
空間認識能力「心的回転」を利用し、「身体優位性」の減弱を検証
今回の研究では、膝OA患者における身体表象の変調に関する新たな証拠を得るために、認知心理学で古くから研究されてきた「心的回転」を利用した実験を実施した。心的回転とは、頭の中で物体を回転させる空間認識能力のことで、人間の知能を構成する重要な要素の一つであると考えられている。心的回転の研究では、抽象的な物体よりも人の身体に似た物体の方が効率的に回転できるという身体優位性が知られており、この効果は身体表象の働きによってもたらされると考えられている。今回の研究は、この身体優位性が膝OAの患者において減弱するかどうかを検討した。
膝OA患者で身体優位性が減弱、健常者との能力差はBMIや歩行能力では説明できず
研究グループは、膝OAを有する高齢女性59人と健常な高齢女性36人に、心的回転課題を行わせた。心的回転課題では、パソコンの画面上に提示された2つの物体が同じか異なるかを判断してボタン押しで回答することを求めた。この時、半数の試行では抽象的な物体のペアを提示し、残り半数の試行では、顔を付けることで人の身体に見えるようにした物体のペアを提示した。
結果、健常な高齢女性では明確な身体優位性が認められたのに対し、膝OAを有する高齢女性ではこの効果がほとんど見られなかった。また、この群間差はBMIや歩行能力の違いでは説明できないことも示された。
リハビリテーション、高齢者支援の新たな視座になると期待
今回の成果は、膝OAに伴う身体表象の機能低下が身体優位性の減少に関与している可能性を示唆するものであり、リハビリテーションや高齢者支援に新たな視座を提供すると期待される。
「本研究は、運動器疾患である膝OAが身体表象や空間認識能力に影響を及ぼす可能性を示唆するものであるが、因果関係の有無や背後にある神経基盤はまだ明らかにできていない。今後、脳活動計測や縦断的研究を通じて、膝OA患者における神経基盤の変調や経時的変化を明らかにしたいと考えている。今回の成果は、身体表象の評価を取り入れた新たなリハビリテーション指標の開発にもつながる可能性があり、心身の統合的な理解に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース


