日本のプライマリ・ケア医、どのような経験に「仕事の意味」を感じているか不明だった
筑波大学は10月30日、日本のプライマリ・ケア医がどのような経験に仕事の意味を感じているのかを明らかにするために、プライマリ・ケア医14人を対象に、仕事で「意味がある」と感じた経験についてインタビュー調査を行った結果を発表した。この研究は、同大医学医療系の山本由布助教、春田淳志客員准教授(研究当時、現:慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター/総合診療教育センター教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC primary care」に掲載されている。

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少子高齢化に伴い、日本の医療現場では多様な健康問題を抱える人が増えている。そのため、患者の全体を診る「総合診療医(プライマリ・ケア医)」の重要性が高まっており、2018年に専門医制度が始まった。しかし、プライマリ・ケア医は幅広い役割を担う一方で、「専門性が曖昧」「ロールモデルが少ない」といったキャリアへの不安を抱える声も聞かれる。このような不安を軽減するヒントとして、プライマリ・ケア診療を継続する専門医の経験から、プライマリ・ケア医の意味・価値・やりがいを知ることが有効であると考えられる。
ポジティブな「仕事の意味」は、仕事への満足度や離職意向に大きく影響することが知られているが、日本のプライマリ・ケア医が具体的にどのような経験に意味を見出しているかは、これまで明らかになっていなかった。そこで今回の研究は、日本のプライマリ・ケア医がどのような経験に「仕事の意味」を感じているのかを明らかにすることを目的とした。
家庭医療専門医/プライマリ・ケア認定医14人対象、インタビュー調査を実施
今回の研究では、日本プライマリ・ケア連合学会が認定する「家庭医療専門医」もしくは「プライマリ・ケア認定医」の資格を持つ医師の中から、年齢・性別・地域などに偏りが生じないように14人を選んでインタビュー調査を実施し、これまでのキャリアや現在の仕事内容、そして「医師の仕事として、意味がある、価値がある、やりがいがある」と感じた経験について質問した。
意味を感じる仕事、患者に関する4項目と社会・地域に関する2項目
分析の結果、プライマリ・ケア医が仕事に意味を見出す経験は、以下の6項目に分類された。
1.多様な健康問題への対応:症状がはっきりしない患者や、さまざまな病気の正確な診断など、幅広い分野の健康問題に対処すること。
2.患者やその家族が抱える問題への包括的なアプローチ:病気だけでなく生活上の悩みにも関わり、複雑な問題を解決に導くこと。
3.継続的な関わりにより築かれる患者との信頼関係:長年にわたって患者を診続ける中で、人生の節目を共有したり、人生のパートナーとして頼りにされたりする経験。
4.多職種連携を通じた患者のサポート:医師だけでなく、多様な専門職と協力して複雑な問題を抱える患者を支えること。
5.医療者や医学生の教育への貢献:医学生や若手医師を指導する中で、彼らの成長に立ち会うことや、自らがロールモデルとなること。
6.地域や社会への貢献:新型コロナウイルス感染症流行時の発熱外来対応や、住民向けセミナーの開催等を通じて、社会のニーズに応えること。
これら6つの項目は、患者との関わりに関するミクロな視点での4項目(1〜4)と、社会や地域との関わりに関するマクロな視点の2項目(5、6)に分けられた。また、患者との関わりに関する項目は、個々が独立しているのではなく、互いに関連し合い、補強し合っている傾向があると考えられた。
プライマリ・ケア医が充実したキャリアを築くきっかけとして期待
今回の研究は、日本のプライマリ・ケアの専門医が、患者の診療を通して自身の専門能力を高めることや、教育や地域社会への貢献といった経験を通じて、仕事の意味を見出していることを明らかにした。これらの経験は、プライマリ・ケア医が、より充実したキャリアを築くためのきっかけになると考えられる。なお、同研究ではプライマリ・ケア医に焦点を当てたが、今後は臓器別専門医や、ライフステージ毎の医師に焦点を当て、さまざまな立場で働く医師がより充実したキャリアを築くための研究に発展させていく予定だ、と研究グループは述べている。
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