医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ALSの選択的な運動ニューロン障害、新たな機序をモデル生物で解明-遺伝研ほか

ALSの選択的な運動ニューロン障害、新たな機序をモデル生物で解明-遺伝研ほか

読了時間:約 2分24秒
2025年11月13日 AM09:00

運動ニューロンの選択的脆弱性が生じるメカニズムは未解明

国立遺伝学研究所は10月28日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で影響を受けやすい大型の運動ニューロンでのみ、オートファジーなどの不要なタンパク質を分解する活性が極めて高いことをゼブラフィッシュを使った研究で発見したと発表した。この研究は、同研究所神経システム病態研究室の浅川和秀准教授、東京大学医科学研究所の佐伯泰教授、東京医科大学医学総合研究所分子薬理学部門の半田宏客員教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは、体を動かす運動ニューロンが選択的に障害を受ける神経変性疾患で、発症メカニズムはいまだ解明されていない。多くの運動ニューロンが失われると、意識や五感が保たれたまま、自分の意志で体を動かすことができなくなる。約10万人に2人の割合で発症し、日本には約9,000人の患者がいるとされる。発症から平均2~3年で命を落とすことも多く、「難病中の難病」とも呼ばれている。

しかし、ALSでは、全ての運動ニューロンが同じように障害を受けるわけではない。そのため、一部の運動ニューロンは失われやすく、別の運動ニューロンは保たれる、その「違い」こそが病気の根本を理解する鍵になると考えられている。

例えば、体を動かすことが難しくなっても、専用のカメラやセンサーが目の動きを追跡し、視線でコンピューターを操作する「視線入力」を利用してコミュニケーションが可能な場合がある。これは、眼球を動かす運動ニューロンが比較的障害を受けにくいためである。一方、体幹や四肢の筋肉に接続して力強い動きを生み出す大型の運動ニューロンは、特に障害を受けやすいことが知られている。このような運動ニューロンの中で失われやすさの差(選択的脆弱性)が生じるメカニズムを明らかにすることがALS研究の大きな課題である。

大型運動ニューロンではオートファジー活性化、ゼブラフィッシュで発見

今回の研究では、生きたまま神経細胞を観察できるゼブラフィッシュを用いて「細胞がタンパク質などの細胞成分を分解する活動」であるオートファジーをリアルタイムに観察した。その結果、脊髄の中でオートファジーが最も活発な細胞が、大型の運動ニューロンであることを見いだした。

プロテアソームも活性化、分解抑制による軸索形成阻害を確認

さらに、大型運動ニューロンでは折りたたみに異常を起こしたタンパク質が多く蓄積していること、そのタンパク質を除去するためのもう一つの分解経路であるプロテアソームも活発に働いていることが明らかになった。ALSに関連する遺伝子異常(TDP-43変異)を導入すると、分解経路の活性はさらに高くなった。一方で、分解活動を人工的に抑えると、筋肉との接続に必要な軸索の形成が阻害された。つまり、加速した分解活動は、細胞を守るための防御反応であることが示された。

分解されるべきものが過剰に蓄積することで生じる運動ニューロンへの負担や、その負担を緩和するために分解活動を活発化させる防御反応は、体長わずか数mmのゼブラフィッシュの仔魚でも検出された。ヒトの場合、運動ニューロンは1m近い長さに達することもあり、さらに負担が大きいと予想された。

ALSの新たな治療法開発につながる可能性

大型運動ニューロンにおいて、タンパク質の折りたたみ異常が起こる仕組みをより詳しく理解し、異常なタンパク質の発生を防ぐ方法や分解機構を支援する方法を開発することは、ALSの新しい治療法につながる可能性が期待される。

「本研究で明らかになった『神経細胞が生まれながらに抱える負担』という考え方は、ALSだけでなく、アルツハイマー病など限られた神経細胞が選択的に障害を受ける他の神経変性疾患の理解にも新たな視点を与えるものだ」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 筋トレ前の高カカオチョコレート摂取、動脈スティフネス低下に有効-明治ほか
  • 子どもの希死念慮・自殺企図増加、神経症やせ症も増加で高止まり-成育医療センター
  • アルツハイマー病、腸内細菌叢が発症に関与の可能性-都長寿研
  • ATTRアミロイドーシス、ザクロ由来成分にアミロイド線維分解効果を発見-熊本大
  • 新規CETP阻害薬Obicetrapib、LDL-C値を有意に低下-大阪医薬大ほか