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生活保護、受給開始後に医療アクセス改善-東北大ほか

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2025年11月10日 AM09:10

生活保護認定前後の外来利用の変化、医科・歯科別に評価した研究はなかった

東北大学は10月27日、生活保護認定によって医療費の自己負担が0割になることが医療アクセスに与える影響を、生活保護受給者2,893人のレセプト情報を用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科の塩田千尋氏(大学院生)、竹内研時准教授、小坂健教授、九州大学大学院医学研究院の福田治久准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Health Forum」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
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医療費の自己負担は、生活保護受給者などの経済的に困窮している人にとって、必要な医療サービスを受ける上での大きな障壁となることが過去の研究から報告されている。また、経済的に困窮している人は一般の住民よりも健康状態が悪く、医療サービスの利用をためらう場合には、さらに健康状態が悪くなると考えられる。

日本では、生活保護受給者に対し、保険診療の医療費負担が0割となる医療扶助の制度が設けられている。これまでの研究では、他の医療保険加入者と比べて、生活保護受給者は入院が多く、医療費も高額になるという報告がある。一方、生活保護認定前後の外来利用の変化を詳細に評価した研究は少なく、特に医科・歯科別に評価した研究は存在しない。

生活保護受給開始の2,893人について、外来利用変化を医科・歯科別に分析

そこで今回、生活保護認定前後の外来利用の変化を医科・歯科別に分析した。研究グループは、LIFE Studyの一環として、国民健康保険の加入者で2018年4月~2021年4月に生活保護受給を開始した2,893人(平均年齢54.2歳、女性51.9%)のレセプト情報を用い、研究を行った。生活保護受給者の生活保護認定月を含む前後各1年間の外来利用については、医科・歯科別に1月当たりの医療費、受診回数、受診1回あたりの費用(単価)を算出した。その際、生活保護認定を見越した受診控えと、生活保護認定による急激な受診増加の影響を考慮し、生活保護認定直前の1か月と認定月を除外して解析を行った。

認定後1年間の外来医療費、医科1.35倍/歯科2.31倍増

研究の結果、生活保護認定前の1年間と比べて認定後の1年間は、外来の医療費、受診回数、単価はそれぞれ、医科では1.35倍、1.32倍、1.31倍に増加し、歯科では2.31倍、1.93倍、2.08倍に増加していた。

さらに、1か月ごとの医療費、受診回数、単価を算出し、その推移を分析した結果、生活保護認定直後に外来の医療費、受診回数、単価はそれぞれ、医科では2,681円、0.26回、1,227円増加し、歯科では2,330円、0.22回、794円増加していた。

歯科医療は価格に敏感、経済的負担を理由に受診控えされやすい

需要の弾力性(価格変化に対する利用の変化の度合い)については、医科・歯科いずれも1未満であり、「非弾力的」であった。ただし、歯科医療の方が価格に敏感であり、経済的負担を理由に受診控えされやすいことが示された。口腔の健康が全身の健康や生活の質に直結することを考えると、歯科における受診増加は、公衆衛生上大きな意義を持つと考えられる。

生活保護による医療費自己負担撤廃が医療アクセスを大幅に改善

今回の研究により、生活保護の認定による医療費自己負担の撤廃が、社会的に脆弱な立場にある人々の医療アクセスを大幅に改善することが明らかになった。このことは、生活保護制度が単なる経済的支援にとどまらず、国民の健康格差を是正する上で重要な役割を果たしていることを示している。同研究で得られた知見をもとに、過剰利用を防ぐためのモニタリングや最小限の自己負担導入といった政策的工夫の検討や、国際的な社会保障制度の比較研究、医療アクセスと健康格差の因果関係を解明する学際的研究への発展も期待される。今回の成果は、医療アクセス改善と財政的持続可能性の両立を図る上で、重要な科学的根拠を提供するものである、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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