医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アレルギー疾患の悪化メカニズムを解明、脂肪分解経路の制御機構を特定-千葉大ほか

アレルギー疾患の悪化メカニズムを解明、脂肪分解経路の制御機構を特定-千葉大ほか

読了時間:約 2分12秒
2025年11月07日 AM09:30

難治性アレルギーに関わる「病原性Th2細胞」、その誘導における免疫代謝の役割は未解明

千葉大学は10月25日、アレルギー性炎症を悪化させる「病原性Th2(ティーエイチツー)細胞」が、免疫細胞が持つ「脂肪滴を分解して再利用する仕組み」によって誘導されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院平原潔教授と横浜市立大学大学院医学研究科金子猛教授、柳生洋行助教(研究当時:千葉大学大学院医学薬学府特別研究学生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Immunology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

体を守る免疫には、ウイルスや細菌などの病原体を排除する「1型免疫」と、ダニや花粉などに反応する「2型免疫」がある。この2型免疫を司るのが「Th2細胞」である。Th2細胞は、免疫の司令塔となるヘルパーT細胞の一種で、特に寄生虫に対する感染から体を守る。一方で、アレルゲン(ダニや花粉など)に対しても反応し、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)を分泌する。このTh2細胞の中でも一部の集団が「病原性Th2細胞」となる。病原性Th2細胞は、アレルゲンを記憶して炎症組織に長くとどまり、再びアレルゲンを感知すると多量のサイトカインを分泌し、通常のTh2細胞よりも強い炎症を引き起こす。喘息などのアレルギー疾患の慢性化や難治化に関与するが、その誘導機構は不明だった。

近年、免疫細胞が、生体内でどのように栄養素(脂肪や糖)を使うかによって、その細胞の性質や働き方が変わる「免疫代謝」という仕組みの重要性が明らかになってきた。しかし、病原性Th2細胞の誘導に「免疫代謝」がどのように関わっているのかはこれまで不明だった。

脂肪分解酵素ATGLとミクロリポファジーによる脂肪滴の分解、病態悪化の鍵と判明

今回の研究では、抗原刺激で活性化したTh2細胞が、炎症組織で増加する特定の脂肪酸を「脂肪滴」として細胞内に燃料として蓄えること、その「脂肪滴」を脂肪分解酵素やオートファジー機構によって少しずつ分解(燃焼)することで、病原性Th2細胞が誘導されることを突き止めた。

喘息モデルマウスの炎症部位では、オレイン酸などの「脂肪酸」が顕著に増加していた。その脂肪酸を、活性化したTh2細胞が取り込んで「脂肪滴」に一時的に蓄積し、脂肪分解酵素ATGLや「ミクロリポファジー」と呼ばれる特殊なオートファジー機構によって脂肪滴を分解することで、病原性Th2細胞が誘導された。脂肪分解酵素ATGLを欠損させたマウスでは、ミクロリポファジーの抑制、病原性Th2細胞の減少とともに、喘息の主症状である好酸球性気道炎症の改善も確認した。好酸球性副鼻腔炎患者においても脂肪分解経路を介した病原性Th2細胞誘導機構が同様に働いていることを確認し、難治性の病態との関連を示した。

脂肪分解経路を標的とした新たな治療法開発に期待

今回の研究では、炎症が生じている組織で免疫細胞が特定の脂肪酸を取り込んで「燃料」として蓄え、それを少しずつ分解(燃焼)することで、自ら喘息などの症状を悪化させる細胞に変貌するというメカニズムを解明した。

「この脂肪分解経路を標的として、脂肪分解酵素ATGLやミクロリポファジーの働きを適切に制御する治療法を開発することを目指す。この取り組みが、既存のステロイド治療や生物学的製剤では十分に抑えられなかった喘息や好酸球性副鼻腔炎などの難治性アレルギー疾患に苦しむ患者の、治療の選択肢を広げる一歩になることを願っている」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 筋トレ前の高カカオチョコレート摂取、動脈スティフネス低下に有効-明治ほか
  • 子どもの希死念慮・自殺企図増加、神経症やせ症も増加で高止まり-成育医療センター
  • アルツハイマー病、腸内細菌叢が発症に関与の可能性-都長寿研
  • ATTRアミロイドーシス、ザクロ由来成分にアミロイド線維分解効果を発見-熊本大
  • 新規CETP阻害薬Obicetrapib、LDL-C値を有意に低下-大阪医薬大ほか